日本取引所グループ・2026年3月期Q3、営業利益17.1%増の813億円——現物売買の活況と清算手数料の大幅増が収益を牽引
売上高
1,396億円
+14.8%
通期予想
1,760億円
営業利益
813億円
+17.1%
通期予想
965億円
純利益
550億円
+17.1%
通期予想
650億円
営業利益率
58.2%
株式会社日本取引所グループ(JPX)が2026年1月29日に発表した2026年3月期第3四半期(2025年4月〜12月)の連結決算は、営業収益が前年同期比 14.8%増 の 1,396億26百万円 、営業利益が 17.1%増 の 813億8百万円 となり、増収増益を記録しました。新NISAの浸透や市場のボラティリティを背景とした現物株取引の活発化に加え、清算業務にかかる手数料が大幅に伸びたことが利益を押し上げました。通期の業績予想については、進捗が順調であるものの、期初からの予想を据え置いています。
業績のポイント
当第3四半期累計期間における日本取引所グループの業績は、市場の活況を背景に極めて堅調に推移しました。最上位の収益指標である営業収益は 1,396億26百万円 (前年同期比 +14.8% )に達し、本業の儲けを示す営業利益は 813億8百万円 (同 +17.1% )と大幅な伸びを記録しています。税引前利益についても 81,678百万円 (同 +17.5% )となり、親会社の所有者に帰属する四半期利益は 54,993百万円 (同 +17.1% )を確保しました。
この好業績の背景には、個人投資家の参画拡大や海外投資家による売買継続により、現物市場の売買代金が前年同期を大きく上回ったことがあります。一方で、システム維持・運営費や人件費などの営業費用も 595億81百万円 (同 +12.1% )と増加しましたが、それ以上に収益の伸びが上回ったことで、高い利益率を維持しています。特に今回、営業費用のうち「その他の営業費用」が 133億78百万円 (同 +86.3% )と急増していますが、これは主に業務拡大に伴う諸経費の増加によるものです。
| 項目 | 当第3四半期累計 | 前年同期実績 | 前年同期比 |
|---|---|---|---|
| 営業収益 | 139,626百万円 | 121,591百万円 | +14.8% |
| 営業利益 | 81,308百万円 | 69,441百万円 | +17.1% |
| 税引前利益 | 81,678百万円 | 69,510百万円 | +17.5% |
| 四半期利益 | 54,993百万円 | 46,967百万円 | +17.1% |
業績推移(通期)
セグメント別動向(サービス別収益)
日本取引所グループは金融商品取引所事業の単一セグメントですが、収益の内訳から各業務の動向を詳しく分析できます。今期から始まった「中期経営計画2027」に基づき、「システム関連収益」を独立した区分として新設し、より実態に即した収益管理を行っています。
最大の収益源である「取引関連収益」は 544億92百万円 (前年同期比 +11.7% )となりました。内訳を見ると、現物株の売買代金増加に伴う取引料が 384億49百万円 (同 +18.0% )と大きく寄与しました。一方で、金融デリバティブ取引料は日経平均先物の取引高減少などが響き、 65億46百万円 (同 8.1%減 )と苦戦しました。
特筆すべきは「清算関連収益」の急成長です。日本証券クリアリング機構が手がける清算手数料は 366億75百万円 (同 +41.1% )と驚異的な伸びを見せました。これは市場全体の取引量増加に加え、証拠金管理や清算業務の付加価値向上が収益に反映された結果と言えます。また、情報関連収益も 248億43百万円 (同 +3.7% )と着実に増加しており、指数ビジネスや相場情報の提供が安定した収益基盤となっています。
| 収益区分 | 当第3四半期実績 | 前年同期比 | 主な要因 |
|---|---|---|---|
| 取引関連収益 | 54,492百万円 | +11.7% | 現物売買代金の増加 |
| 清算関連収益 | 36,675百万円 | +41.1% | 金融商品債務引受の増加 |
| 上場関連収益 | 12,583百万円 | +2.3% | 年間上場料の増加 |
| 情報関連収益 | 24,843百万円 | +3.7% | 指数ビジネスの拡大 |
| システム関連収益 | 10,336百万円 | +3.7% | コロケーションサービス利用増 |
財務状況と資本政策
2025年12月末時点の総資産は 71兆7,379億円 となり、前期末の85兆3,967億円から大幅に減少しています。これは連結子会社である日本証券クリアリング機構が清算業務で扱う「清算引受資産・負債」が市場状況により変動したためです。JPXの本来の財務規模を測る指標として、これらの清算関連資産を除いた資産額は 4,124億円 (前期末比 160億円減 )となっています。
資本面では、親会社の所有者に帰属する持分が 3,204億62百万円 となりました。今期は配当金支払により 560億円 のキャッシュが流出したほか、株主還元策として 205億14百万円 の自社株買いを実施し、取得した株式を即座に消却しました。これにより、自己資経常利益率(ROE)の向上と資本効率の最適化を図っています。
配当については、2024年10月の1株につき2株の株式分割後も積極的な還元姿勢を維持しています。通期の配当予想は1株当たり 50.00円 を据え置いており、分割前換算では実質的な増配基調を継続しています。配当性向60%以上を目標とする方針に基づき、業績に連動した安定的な還元を目指す構えです。
通期見通し
2026年3月期の通期連結業績予想について、会社側は期初計画を維持しました。第3四半期までの進捗は利益面で計画の8割を超えており、極めて順調と言えますが、足元の相場変動リスクを考慮し慎重な姿勢を崩していません。
| 項目 | 2026年3月期予想 | 前期実績 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 営業収益 | 176,000百万円 | 162,154百万円 | +8.5% |
| 営業利益 | 96,500百万円 | 90,140百万円 | +7.1% |
| 当期利益 | 65,000百万円 | 61,105百万円 | +6.4% |
この通期予想は、現物市場の1日平均売買代金を 6兆円 、日経平均先物の取引高を 14万7,000単位 と想定して策定されています。NISA経由の資金流入や海外勢の日本株シフトが継続すれば、期末にかけての上方修正も期待できる水準にあります。
リスクと課題
好調な業績を維持する一方で、以下のリスク要因が挙げられています。
- 市場ボラティリティの低下: 相場が膠着状態に陥ると、手数料収入の柱である取引関連収益が減少する懸念があります。
- デリバティブ取引の鈍化: 日経平均株価先物などの取引高が前年を下回る傾向にあり、投資戦略の多様化への対応が急務です。
- 清算業務の資産変動: 清算引受資産の規模が兆円単位で変動するため、リスク管理の高度化が常に求められます。
- システム維持コストの増大: サイバーセキュリティ対策やシステムの安定稼働に向けた投資負担が増加傾向にあり、利益率への圧迫要因となります。
日本取引所グループ(JPX)の決算は、日本の資本市場の「体温」をそのまま反映した非常に強い内容でした。特筆すべきは以下の3点です。
- 清算関連収益の飛躍的な伸び: 前年比+41.1%という数字は、単なる市場の活況だけでなく、JPXが提供するインフラの「利用密度」が高まっていることを示唆しています。取引所としての独占的地位が、清算業務を通じた収益多角化によってさらに強固になっています。
- デリバティブの弱含みと現物の対比: デリバティブ取引料の減少は気になる点ですが、これは昨今の日本株が「ボラティリティ狙いの投機」から「新NISAなどを通じた中長期投資」へシフトしている側面を映している可能性があります。取引所にとっては、より安定的な現物手数料が支えになるポジティブな構造変化とも捉えられます。
- 資本効率への執念: 巨額の資産(清算関連資産)を抱えながらも、自社株買いと消却をセットで行う姿勢は、グローバルな投資家から見た「投資対象としての魅力」を強く意識したものです。就職活動中の学生にとっても、単なる「公的なインフラ」ではなく、高度な資本政策を遂行する「稼ぐ金融機関」としての側面は注目に値するでしょう。
