三井化学・2026年3月期Q3、純利益40%減の225億円——市況悪化で通期予想を下方修正、300億円の自社株買い発表
売上高
1.2兆円
-9.0%
通期予想
1.7兆円
営業利益
546億円
-18.3%
通期予想
870億円
純利益
226億円
-40.1%
通期予想
420億円
営業利益率
4.5%
三井化学が5日に発表した2026年3月期第3四半期(2025年4〜12月)の連結決算は、親会社の所有者に帰属する四半期利益が前年同期比 40.1%減 の 225億8,100万円 と大幅な減益となった。ナフサ等原料価格の下落に伴う販売単価の低下に加え、中国でのフェノール事業における減損損失の計上が利益を大きく押し下げた。同社はこれを受け、通期の業績予想を下方修正する一方、資本効率の向上を目指し 300億円 を上限とする自己株式の取得を公表した。

業績のポイント
当第3四半期累計期間の売上収益は、前年同期比 9.0%減 の 1兆2,187億円 となった。減収の主な要因は、ナフサなどの原料価格下落に連動した販売価格の下落に加え、主力であるベーシック&グリーン・マテリアルズセグメントでの販売数量減少が響いた。利益面でも厳しい状況が続いており、本業の稼ぎを示すコア営業利益は 10.3%減 の 679億6,900万円 にとどまった。
営業利益は前年同期比 18.3%減 の 546億4,400万円 と落ち込みが鮮明となった。これはコア営業利益の減少に加え、中国で展開するフェノール事業の持分法適用会社において、市場環境の悪化を背景とした固定資産の減損損失を計上したことが主因である。原料安に伴う在庫評価損益の悪化も利益を圧迫する要因となった。投資家・就活生にとっては、化学業界特有の「原料価格と製品価格のタイムラグ(在庫評価損益)」や、中国経済の停滞が日本の素材メーカーに与える影響の大きさを再確認させる内容となっている。
| 指標(百万円) | 2025年3月期 Q3 | 2026年3月期 Q3 | 前年同期比 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 1,338,836 | 1,218,711 | △9.0% |
| コア営業利益 | 75,763 | 67,969 | △10.3% |
| 営業利益 | 66,901 | 54,644 | △18.3% |
| 親会社所有者帰属利益 | 37,711 | 22,581 | △40.1% |
業績推移(通期)
セグメント別動向
セグメント別の状況では、ICT分野での回復が見られるものの、基盤素材分野の苦戦が目立つ結果となった。各事業の状況は以下の通りである。
ICTソリューションセグメントは、唯一の明るい材料となった。売上収益は子会社譲渡の影響で 2,084億円 (前年同期比 13億円減 )となったが、コア営業利益は 285億円 と前年同期の 211億円 から大きく伸長した。半導体・光学材料やICTフィルム・シートが、世界的な半導体市場の需要回復を追い風に堅調に推移し、増益を牽引した。
一方で、ベーシック&グリーン・マテリアルズセグメントは深刻な状況にある。売上収益は 4,425億円 (同 863億円減 )、コア営業損失は 128億円 (前年同期は 73億円 の損失)と赤字幅が拡大した。中国経済の減速による市況悪化や、国内ナフサクラッカーの定期修理に伴う低稼働が響いた。特にフェノール類やポリオレフィンの需給緩和が収益を圧迫している。
モビリティソリューションは売上収益 3,828億円 (同 337億円減 )、コア営業利益 375億円 (同 57億円減 )と減収減益となった。米国でのアルミ工場火災に起因する自動車メーカーの減産や、為替差による交易条件の悪化が利益を削った。
ライフ&ヘルスケア・ソリューションは売上収益 1,741億円 (同 13億円増 )と微増したが、コア営業利益は 170億円 (同 35億円減 )の減益だった。メガネレンズ材料などのビジョンケアや農業化学品は堅調だったものの、大牟田工場での製造設備稼働停止に伴う固定費負担増が利益の押し下げ要因となった。
| セグメント名 | 売上収益 | コア営業利益 | 利益増減要因 |
|---|---|---|---|
| ライフ&ヘルスケア | 1,741億円 | 170億円 | 工場停止による固定費増 |
| モビリティ | 3,828億円 | 375億円 | 米国OEM減産、為替影響 |
| ICT | 2,084億円 | 285億円 | 半導体市場の需要回復 |
| ベーシック&グリーン | 4,425億円 | △128億円 | 市況悪化、ナフサ安の在庫損 |
| セグメント | 売上高 | 構成比 | 営業利益 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|---|
| ライフ&ヘルスケア・ソリューション | 1,741億円 | 14% | 170億円 | 9.8% |
| モビリティソリューション | 3,828億円 | 31% | 375億円 | 9.8% |
| ICTソリューション | 2,083億円 | 17% | 285億円 | 13.7% |
| ベーシック&グリーン・マテリアルズ | 4,425億円 | 36% | -12,773百万円 | -2.9% |
財務状況と資本政策
総資産は2025年3月末比で 551億円増 の 2兆2,091億円 となった。これは主に有形固定資産の取得が進んだことによる。一方で、有利子負債も 231億円増 の 8,148億円 と増加傾向にあるが、親会社所有者帰属持分比率は 39.7% と前期末から 0.3ポイント改善 し、一定の財務健全性を維持している。
特筆すべきは、厳しい決算内容ながらも積極的な株主還元姿勢を維持している点だ。同社は2026年1月1日付で 1株につき2株の株式分割 を実施した。さらに、今回の決算発表と同時に、発行済株式総数の 4.9% にあたる 1,840万株 、金額にして 300億円 を上限とする自己株式の取得と消却を発表した。これは、ROE(自己資本利益率)の向上と、株価純資産倍率(PBR)の改善に向けた経営の強い意思表示と受け取れる。配当についても、分割前換算で年間 150円 を維持する方針を変えていない。
通期見通しの下方修正とリスク
三井化学は、2026年3月期の通期連結業績予想を下方修正した。修正後の売上収益は 1兆6,750億円 (前回予想比 250億円減 )、親会社の所有者に帰属する当期利益は 420億円 (同 130億円減 )を見込む。
修正の理由として、自動車生産台数の減少に伴う販売停滞や、ナフサ価格の下落による在庫評価損益の悪化を挙げている。また、中国を中心とした化学品市況の回復の遅れも前提条件に織り込まれた。今後の焦点は、半導体市場の回復を背景としたICTセグメントの成長継続と、構造改革が進むベーシック&グリーン部門の損益改善が計画通り進むかにある。また、米国の通商政策による世界経済の不透明感も、輸出比率の高い同社にとって無視できないリスク要因として残っている。
| 項目(百万円) | 前回予想(A) | 今回修正(B) | 修正幅(B-A) | 前期実績 |
|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 1,700,000 | 1,675,000 | △1.5% | 1,809,212 |
| コア営業利益 | 110,000 | 103,000 | △6.4% | 101,000 |
| 営業利益 | 95,000 | 87,000 | △8.4% | 78,333 |
| 当期利益 | 55,000 | 42,000 | △23.6% | 32,236 |
三井化学の決算は、中国経済の停滞とナフサ市況の変動という外部要因に翻弄される伝統的化学大手の苦悩を象徴しています。特に中国でのフェノール事業減損は、同社が推進する「ポートフォリオ変革」の途上における痛みを表しています。
注目すべきは以下の3点です。
- ICT部門の独歩高: 半導体需要の回復が業績の下支えとして機能し始めており、単なる「素材屋」から高付加価値分野へのシフトが実を結びつつある点は評価できます。
- 株主還元の強化: 業績下方修正というネガティブなニュースに対し、大規模な自社株買い(300億円)をぶつけてきた点は、東証の要請する「資本コストや株価を意識した経営」を強く意識している証拠です。
- 構造改革の緊急性: 赤字が続くベーシック&グリーン部門の抜本的な改革(他社との連携や縮小など)が、今後の株価再評価の鍵を握るでしょう。
就職活動中の学生にとっては、同社が「汎用化学品」から「ICT・ヘルスケア」へと収益構造を激変させている過渡期にあることを理解する良い材料となるはずです。
