三井金属・2026年3月期、営業利益75%増の1,309億円で過去最高——AIサーバー向け銅箔好調、構造改革で自動車部品事業を売却
売上高
7,585億円
+6.5%
通期予想
8,300億円
営業利益
1,309億円
+75.1%
通期予想
910億円
純利益
913億円
+41.1%
通期予想
750億円
営業利益率
17.3%
三井金属が発表した2026年3月期の連結決算は、売上高・各段階利益ともに前期に続き過去最高を更新する極めて好調な内容となりました。AIサーバーや高性能通信インフラ向けの高付加価値銅箔が利益を牽引したほか、非鉄金属相場の上昇が追い風となりました。同社は資本効率の向上を狙い、自動車用ドアロック事業を手掛ける三井金属アクトの売却を断行。稼ぐ力の源泉を成長分野へ集中させる「選択と集中」の姿勢を鮮明にしています。主要指標は売上高 7,585億円(前年比 +6.5%)、営業利益 1,309億円(同 +75.1%)に達しました。
業績のポイント
2026年3月期の業績は、売上高が 7,585億円(前期比 +6.5%)、営業利益が 1,309億円(同 +75.1%)、親会社株主に帰属する当期純利益が 912億円(同 +41.1%)となりました。増益の主要因は、生成AIの普及に伴うデータセンター向け極薄銅箔の需要拡大と、亜鉛などの非鉄金属価格の上昇による在庫要因の好転です。特に利益面では、高付加価値製品の販売比率が高まったことで営業利益率が前期の 10.5% から 17.3% へと大幅に改善しました。
経営面では、2025年度からスタートした新中期経営計画「25中計」に基づき、不採算・非コア事業の整理を加速させています。その象徴が、連結子会社であった三井金属アクト(自動車用ドアロック事業)の全株式譲渡です。この売却に伴い、関係会社株式売却損を特別損失に計上したものの、本業の収益力がそれを補って余りある強さを見せました。
| 指標 | 2025年3月期実績 | 2026年3月期実績 | 前期比 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 7,123億円 | 7,585億円 | +6.5% |
| 営業利益 | 747億円 | 1,309億円 | +75.1% |
| 経常利益 | 764億円 | 1,367億円 | +78.9% |
| 当期純利益 | 646億円 | 912億円 | +41.1% |
業績推移(通期)
セグメント別動向
全セグメントで戦略的な動きが見られましたが、特に機能材料部門が利益の柱として存在感を高めています。
機能材料:AIサーバー需要が爆発的に伸長
売上高は 3,284億円(前期比 +33.4%)、経常利益は 665億円(同 +65.0%)と、驚異的な伸びを記録しました。AIサーバーの多層基板に使われる高周波基板用電解銅箔や、スマートフォン向けキャリア付極薄銅箔の販売が極めて好調に推移しました。需要拡大に対応するため、2026年度以降の段階的な生産能力増強も決定しており、将来の成長への布石を打っています。
金属:相場上昇とリサイクル強化が寄与
売上高は 3,766億円(前期比 +15.9%)、経常利益は 750億円(同 +68.7%)となりました。亜鉛や貴金属の価格上昇が追い風となったほか、相場変動に伴う在庫要因が利益を押し上げました。また、循環型社会への対応として、製錬ネットワークを活用した有価金属のリサイクル回収能力の強化を継続しており、外部環境に左右されにくい収益基盤の構築を進めています。
自動車部品:構造改革による事業譲渡
売上高は 512億円(前期比 -46.6%)、経常利益は 8億円の損失(前期は7億円の黒字)となりました。これは、主要子会社であった三井金属アクトの株式譲渡に伴い、当期は4月から9月までの6カ月分のみを計上しているためです。資本効率を意識したポートフォリオ管理の一環として、長年の課題であった同事業を切り離したことは、中長期的な収益性の安定に寄与すると判断されています。
| セグメント | 売上高 | 経常利益 | 利益増減率 |
|---|---|---|---|
| 機能材料 | 3,284億円 | 665億円 | +65.0% |
| 金属 | 3,766億円 | 750億円 | +68.7% |
| 自動車部品 | 512億円 | △8億円 | - |
| その他 | 1,364億円 | 39億円 | +137.2% |
| セグメント | 売上高 | 構成比 | 営業利益 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|---|
| 機能材料 | 3,284億円 | 43% | 665億円 | 20.3% |
| 金属 | 3,767億円 | 50% | 751億円 | 19.9% |
| 自動車部品 | 512億円 | 7% | -849百万円 | -1.7% |
財務状況と資本政策
総資産は前期末比で 395億円 増加し、 6,974億円 となりました。好調な業績を背景に利益剰余金が積み上がったほか、有利子負債の削減を進めたことで、財務健全性は一段と向上しています。自己資本比率は前期末の 50.4% から 59.1% へと 8.7ポイント 大幅に上昇し、安定した財務基盤を確立しました。
株主還元についても、過去最高益を受けて大幅な増配を実施します。2026年3月期の年間配当は、前期から65円増額の 245円 となりました。さらに、2027年3月期はさらに35円増配の 280円 を予定しており、株主への利益還元を重視する経営姿勢を明確に打ち出しています。これは資本効率(ROE)の向上と、安定したキャッシュフローの創出に自信を持っていることの表れと言えます。
戦略トピック:成長投資とM&Aの加速
同社は将来の成長エンジンとして、「全固体電池」と「M&A」に注力しています。事業創造本部では、次世代電池として期待される全固体電池向け固体電解質(A-SOLiD)の初期量産工場の建設を開始しました。これはEV(電気自動車)市場のパラダイムシフトを見据えた重要な投資です。
また、新中期経営計画では投資枠を大幅に拡大しています。バイサイドM&Aの予算枠を、当初の240億円から 600億円 へと大幅に引き上げました。既存事業の深化(知の深化)だけでなく、新規事業の探索(知の探索)を並行して行う「両利きの経営」を実践し、非連続な成長を目指す方針です。2026年4月には九州に「九州先端材料開発センター」を設立し、外部知見を取り入れた開発体制も強化しています。
通期見通し
2027年3月期の通期見通しは、売上高こそ増収を見込むものの、利益面では減益となる慎重な予想を立てています。売上高は前期比 9.4%増 の 8,300億円 を見込む一方、営業利益は同 30.5%減 の 910億円 、純利益は同 17.8%減 の 750億円 となる見通しです。
減益の背景には、2026年3月期に利益を大きく押し上げたメタル相場の高騰や在庫要因によるプラス効果の剥落を織り込んでいることがあります。また、将来の成長に向けた研究開発費や設備投資に伴う償却費の増加も見込んでいます。一見すると大幅な減益ですが、一時的な要因を除いた実力値ベースでは、堅調な収益力を維持する計画です。
| 項目 | 2026年3月期実績 | 2027年3月期予想 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 7,585億円 | 8,300億円 | +9.4% |
| 営業利益 | 1,309億円 | 91,000億円 | △30.5% |
| 純利益 | 912億円 | 75,000億円 | △17.8% |
リスクと課題
好調な業績の一方で、以下のリスク要因が挙げられています。
- 非鉄金属相場の変動: 銅や亜鉛の国際価格下落は、同社の在庫評価や売上利益に直接的なマイナス影響を及ぼします。
- 為替相場の不透明感: 円安基調は輸出に有利ですが、急激な変動は原材料調達コストや海外子会社の連結決算に影響します。
- 地政学リスク: 中東情勢の緊迫化によるホルムズ海峡の航行制限などは、資源価格や物流コストの上昇を招く懸念があります。
- 特定市場への依存: AIサーバー向け需要が好調な反面、半導体市場のサイクルが反転した場合の影響を注視する必要があります。
三井金属の今回の決算は、まさに「攻めと守りの転換点」を象徴する内容です。かつて同社の課題とされていた「自動車部品事業(アクト)」を、損失を覚悟の上で切り離したことは、ROE(自己資本利益率)を意識する投資家から高く評価されるでしょう。
注目すべきは、単なる相場高による利益増ではなく、AIサーバー向け銅箔という「高付加価値な独自製品」で圧倒的な利益を上げている点です。これにより、素材メーカーから「高機能材料デバイスメーカー」への変貌がより鮮明になりました。
今後の焦点は、拡大したM&A予算(600億円)をどのような企業や技術に投じるか、そして次世代の柱と期待される全固体電池向け固体電解質の商用化が計画通り進むかです。2027年3月期の減益予想は、相場要因を保守的に見積もった結果であり、過度な懸念は不要ですが、成長投資がいつ利益として結実するかが中長期的な株価のポイントになりそうです。
