アサヒ・2025年12月期Q3、純利益26%減の1,028億円——サイバー攻撃と原材料高が響く、欧州は増益を確保
売上高
2.2兆円
-0.6%
通期予想
3.0兆円
営業利益
1,587億円
-18.0%
通期予想
2,550億円
純利益
1,028億円
-26.2%
通期予想
1,675億円
営業利益率
7.4%
アサヒグループホールディングスが発表した2025年12月期第3四半期の連結決算(IFRS)は、売上収益が 2兆1,548億円(前年同期比 0.6%減)、親会社の所有者に帰属する四半期利益が 1,028億円(同 26.2%減)と減収減益となりました。2025年9月に発生したサイバー攻撃に伴うシステム障害が決算発表を大幅に遅らせる異例の事態となり、事業利益ベースで約1%の押し下げ要因となっています。原材料価格の高騰や物流費・人件費の上昇が利益を圧迫する中、プレミアム戦略の強化で収益性の維持を図っています。
業績のポイント
当第3四半期累計期間は、サイバー攻撃という予期せぬ外部要因が経営に大きな影を落としました。売上収益は 2兆1,548億円 と微減にとどまりましたが、実質的な稼ぐ力を示す事業利益は 2,024億円(前年同期比 5.5%減)に減少しました。これはシステム障害による操業への影響に加え、世界的なインフレに伴う原材料関連費用の増加が主因です。
営業利益についても、事業ポートフォリオの再構築や減損損失などの一時的要因を含み 1,587億円(前年同期比 18.0%減)と低迷しました。一方で、為替変動の影響を除いたベースでの売上収益は 0.6%増 となっており、主力ブランドの価格改定や高付加価値化(プレミアム化)といったコア戦略は、厳しい環境下でも一定の成果を収めています。
業績推移(通期)
セグメント別動向
2025年度より、報告セグメントを「日本・東アジア」「欧州」「アジアパシフィック」の3区分に再編しました。各地域で市場環境やコスト圧迫の度合いが異なり、収益力に明暗が分かれる結果となりました。
| セグメント | 売上収益 | 前年同期比 | 事業利益 | 前年同期比 | 事業利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 日本・東アジア | 1兆285億円 | +1.3% | 999億円 | △3.1% | 9.7% |
| 欧州 | 5,825億円 | △2.2% | 918億円 | +2.4% | 15.8% |
| アジアパシフィック | 5,312億円 | △2.4% | 594億円 | △6.2% | 11.2% |
日本・東アジア セグメントは、主力ブランド『アサヒスーパードライ』の販促強化や『未来のレモンサワー』の数量限定発売など、新価値提案が寄与し増収を確保しました。しかし、サイバー攻撃によるシステム障害の影響や、原材料費・物流費の増加を価格改定で補いきれず、事業利益は 999億円(前年同期比 3.1%減)となりました。
欧州 セグメントは、天候不順の影響で販売数量こそ減少したものの、プレミアム戦略が功を奏しました。グローバルブランドの『Asahi Super Dry』や『Peroni Nastro Azzurro』が堅調に推移し、売上単価の向上とコスト効率化の推進により、事業利益は 918億円(前年同期比 2.4%増)と、主要3セグメントの中で唯一の増益を達成しました。
アジアパシフィック セグメントは、オセアニアでの酒類・飲料事業におけるプレミアム化を推進したものの、為替変動によるマイナス影響が大きく、売上収益・事業利益ともに前年を下回りました。現地通貨ベースでは底堅い動きを見せていますが、円貨換算では厳しい着地となっています。
| セグメント | 売上高 | 構成比 | 営業利益 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|---|
| 日本・東アジア | 1.0兆円 | 48% | 1,000億円 | 9.7% |
| 欧州 | 5,826億円 | 27% | 918億円 | 15.8% |
| アジアパシフィック | 5,313億円 | 25% | 595億円 | 11.2% |
財務状況と資本政策
2025年9月末時点の総資産は、前年度末比 1,745億円増 の 5兆5,779億円 となりました。これは為替相場の変動により、海外子会社の外貨建資産の円換算額が増加したことが主な要因です。一方、自己資本の拡充も進み、親会社所有者帰属持分比率は 50.4%(前年度末は49.4%)と、目標とする財務健全性を維持しています。
株主還元については、2024年10月に実施した1株から3株への株式分割を考慮した配当を実施しています。今期の年間配当予想は1株当たり 52.00円(分割前換算で156円相当)としており、直近公表の予想から変更はありません。利益面での苦戦が続く中でも、安定的な還元方針を維持する姿勢を鮮明にしています。
リスクと課題
最大の経営課題は、今回露呈したサイバー攻撃への対応とセキュリティ体制の抜本的な強化です。システム障害が利益面だけでなく、決算発表の遅延という形で資本市場への信頼にも影響した点は重く受け止めています。また、以下の外部リスクについても引き続き注視が必要です。
- 原材料価格・エネルギーコストの継続的な上昇による利益率の圧迫
- 主要市場における個人消費の減速や天候変動による需要の落ち込み
- 為替レートの急激な変動がもたらす円換算業績への影響
- グローバルな通商政策の変化に伴うサプライチェーンへのリスク
通期見通し
2025年12月期の通期連結業績予想については、2025年8月に公表した数値を据え置いています。サイバー攻撃による業績への影響は引き続き精査中としていますが、現時点では業績予想を修正するほどの重大な影響は判明していないとしています。
| 項目 | 前回予想 | 今回修正 | 前期実績 (2024.12) |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 2兆9,500億円 | 変更なし | 2兆9,390億円 |
| 事業利益 | 2,900億円 | 変更なし | 2,851億円 |
| 親会社帰属純利益 | 1,675億円 | 変更なし | 1,921億円 |
通期では微増収・微増益(事業利益ベース)を見込んでいますが、第3四半期までの純利益進捗率は約61.4%にとどまっており、最終四半期での挽回が焦点となります。
今回の決算で最も注目すべきは、業績数値そのものよりも、9月に発生したサイバー攻撃による甚大な影響です。決算発表が翌年3月までずれ込むという事態は、グローバル企業としてサプライチェーン管理やガバナンス体制に大きな課題を突きつけました。
ビジネスモデルの観点では、欧州事業が天候不順の中でも増益を確保した点がポジティブです。これはPeroniなどのプレミアムブランドへの投資が実を結び、コスト高を価格で吸収できる「ブランドの価格支配力」が備わってきた証左といえます。
一方で、日本国内市場は原材料高とシステム障害のダブルパンチを受け、利益率が10%を切る水準まで低下しています。今後はセキュリティ投資によるコスト増も予想される中、どのように収益性を再構築するかが、就活生や投資家にとっても重要なチェックポイントになるでしょう。
