味の素・2026年3月期Q3、事業利益5.6%増の1,459億円——電子材料好調、本社ビル売却益で純利益予想を上方修正
売上高
1.2兆円
+1.1%
通期予想
1.6兆円
営業利益
1,460億円
+5.6%
通期予想
1,810億円
純利益
897億円
+8.9%
通期予想
1,300億円
営業利益率
12.5%
味の素が発表した2026年3月期第3四半期決算は、売上高が前年同期比 1.1%増 の 1兆1,641億円、事業利益が 5.6%増 の 1,459億円 となった。主力のアミノ酸技術を活かした半導体パッケージ用電子材料(ABFフィルム)が大幅な増益を牽引し、調味料・食品の堅調な販売が業績を下支えした。また、東京・京橋の本社ビル売却に伴う約 406億円 の譲渡益を第4四半期に計上する見通しとなったことから、通期の純利益予想を従来の1,200億円から 1,300億円 へと上方修正している。

業績のポイント
当第3四半期累計期間の業績は、売上・利益ともに前年を上回り堅調に推移した。売上高は前年同期比 1.1%増、事業利益は 5.6%増 となり、親会社株主に帰属する四半期利益は 8.9%増 の 897億円 に達した。特に高付加価値な電子材料の販売好調が利益率を押し上げ、原材料コストの上昇や北米での冷凍食品の苦戦を補う構造となっている。
特筆すべきは、通期業績予想の修正である。売上高は足元の販売状況を鑑みて下方修正したものの、利益面ではヘルスケアセグメントの上振れに加え、固定資産(本社ビル土地・建物)の譲渡益を計上することを反映し、最終利益を大幅に引き上げた。これにより、親会社株主に帰属する当期利益は前期比 85.0%増 の 1,300億円 となる見通しだ。
| 指標 | 2026年3月期 Q3実績 | 前年同期比 | 通期予想(修正後) | 前期実績比 |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 1兆1,641億円 | +1.1% | 1兆6,000億円 | +4.5% |
| 事業利益 | 1,459億円 | +5.6% | 1,810億円 | +13.6% |
| 四半期利益 | 897億円 | +8.9% | 1,300億円 | +85.0% |
業績推移(通期)
セグメント別動向
主力である調味料・食品セグメントは、売上高 6,950億円(前年同期比 +2.5%)、事業利益 1,135億円(同 +2.2%)と増収増益を確保した。日本国内では販売増が寄与し、海外でも為替影響に加え、東南アジアを中心に堅調な需要を維持した。一方で、ソリューション&イングリディエンツ区分における加工用うま味調味料の販売減が一部重石となったが、全体ではコスト増を価格改定や販売増で吸収した格好だ。
冷凍食品セグメントは、売上高 2,167億円(同 0.9%減)、事業利益 84億円(同 23.3%減)と苦戦が鮮明となった。日本国内は増収となったものの、主要市場の北米において販売が伸び悩み、為替のマイナス影響も相まって大幅な減益を余儀なくされた。競争環境の激化が利益を圧迫しており、構造改革の進展が今後の焦点となる。
ヘルスケア等セグメントは、売上高 2,425億円(同 0.1%減)、事業利益 488億円(同 26.2%増)と、利益面で際立った成長を見せた。売上高が横ばいなのは子会社(味の素アルテア社)の売却による剥落が影響しているが、実質的には半導体パッケージ用電子材料(ABFフィルム)の販売好調が利益を大きく押し上げた。生成AI向け需要などの拡大を背景に、電子材料が同社の新たな成長エンジンとして存在感を強めている。
| セグメント | 売上高 | 前年比 | 事業利益 | 前年比 |
|---|---|---|---|---|
| 調味料・食品 | 6,950億円 | +2.5% | 1,135億円 | +2.2% |
| 冷凍食品 | 2,167億円 | △0.9% | 84億円 | △23.3% |
| ヘルスケア等 | 2,425億円 | △0.1% | 488億円 | +26.2% |
| セグメント | 売上高 | 構成比 | 営業利益 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|---|
| 調味料・食品 | 6,950億円 | 60% | 1,135億円 | 16.3% |
| 冷凍食品 | 2,167億円 | 19% | 84億円 | 3.9% |
| ヘルスケア等 | 2,425億円 | 21% | 488億円 | 20.1% |
財務状況と資本政策
2025年12月末時点の資産合計は、前期末比 1,762億円増 の 1兆8,973億円 となった。円安に伴う在外営業活動体の換算差額の増加や、棚卸資産の積み増しが主な要因である。負債面ではコマーシャル・ペーパーの発行などにより有利子負債が増加し、親会社所有者帰属持分比率は 39.2%(前期末比4.2ポイント低下)となったが、依然として強固な財務基盤を維持している。
株主還元については、自己株式の取得・消却を積極的に進めている。当期間中に約 1,093億円 の自己株式取得を実施し、2026年1月には発行済株式の約2.8%にあたる 2,790万株の消却 を完了させた。また、2025年4月1日付で1株につき2株の株式分割を実施することを公表しており、投資家層の拡大と流動性の向上を目指す構えだ。年間配当予想は1株当たり 48円(分割調整後)を維持している。
通期見通しと戦略トピック
同社は通期の利益予想を上方修正したが、その背景には本業の堅調さに加え、「本社ビルの譲渡」という大胆な経営判断がある。東京都中央区京橋に所在する旧本社ビルの土地・建物を国内法人へ譲渡し、約 406億円 の譲渡益を第4四半期に計上する。これは資本効率の改善と資産ポートフォリオの最適化を目的としたものであり、得られた資金を次なる成長投資へ振り向ける戦略だ。
| 項目 | 前回予想 | 今回修正 | 前期実績 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 1兆6,180億円 | 1兆6,000億円 | 1兆5,310億円 |
| 事業利益 | 1,800億円 | 1,810億円 | 1,593億円 |
| 親会社株主当期利益 | 1,200億円 | 1,300億円 | 702億円 |
| 1株当たり当期利益 | 122.95円 | 133.56円 | 70.18円 |
リスクと課題
好調な業績の裏で、いくつかの懸念材料も散見される。第一に、冷凍食品事業の収益性改善である。北米市場での競争激化とコスト高により利益が大幅に減少しており、ブランド力の強化や製造効率の向上が急務となっている。第二に、原材料・エネルギー価格の高止まりや、為替変動による調達コストへの影響である。特にアジア圏での購買力変化が主力製品の販売にどう影響するか、引き続き注視が必要だ。また、好調な電子材料についても、半導体サイクルの変動リスクを内包している点に留意すべきである。
味の素の今決算で最も注目すべきは、単なる「食品メーカー」から、「アミノサイエンス企業」への変革が数字に表れている点です。
- 成長の質: 調味料が安定的に稼ぐ一方で、利益成長の主軸が半導体向けの電子材料に移っています。ヘルスケアセグメントの利益率(約20%)は、冷凍食品(約4%)を圧倒しており、事業ポートフォリオの高度化が進んでいます。
- 資産効率の追求: 本社ビルの売却と、それに伴う特別利益の計上、さらには大規模な自己株買いと消却を組み合わせる手法は、資本効率(ROE)を強く意識した経営姿勢の現れと言えます。
- 就活生・投資家への視点: 「味の素=マヨネーズやほんだし」というイメージを超え、ハイテク産業を下支えする素材メーカーとしての側面を理解することが重要です。北米冷凍食品の立て直しが唯一の懸念点ですが、成長投資への資金余力は十分にあると判断できます。
