日本製鉄・2026年3月期、売上高10兆円突破も純利益95%減——USスチール買収の影響大きく、実力利益は確保
売上高
10.1兆円
+15.7%
通期予想
11.0兆円
営業利益
2,429億円
-55.7%
通期予想
5,300億円
純利益
172億円
-95.1%
通期予想
2,200億円
営業利益率
2.4%
日本製鉄が発表した2026年3月期連結決算は、売上収益が前年比 15.7%増 の 10兆632億円 となり、同社として初めて10兆円の大台を突破しました。一方で、親会社の所有者に帰属する当期利益は同 95.1%減 の 171億円 と大幅な減益となりました。これは、米鉄鋼大手USスチールの買収完了に伴う巨額の一過性費用や、中国の過剰生産による国際市況の低迷が響いた形ですが、会社側は実力ベースの利益は確保しており、成長に向けた基盤構築は進んでいると強調しています。
業績のポイント
2026年3月期の通期決算は、売上高が過去最高の 10兆632億円(前年比 +15.7%)を記録した一方、利益面では非常に厳しい数字が並びました。営業利益は 2,429億円(前年比 -55.7%)、税引前利益は 1,728億円(前年比 -67.0%)となり、最終的な当期利益は 171億円(前年比 -95.1%)まで圧縮されました。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 8兆6,955億円 | 10兆632億円 | +15.7% |
| 事業利益 | 6,832億円 | 5,141億円 | -24.8% |
| 営業利益 | 5,479億円 | 2,429億円 | -55.7% |
| 当期利益 | 3,502億円 | 171億円 | -95.1% |
この大幅な利益減少の最大の要因は、USスチールの完全子会社化に関連する会計上の処理です。買収に伴うアドバイザリー費用や、従業員へのクロージング・ボーナス(約142億円)、さらに事業再編損として 2,712億円 を計上したことが利益を大きく押し下げました。しかし、在庫評価差等を除いた独自の指標である「実力ベース連結事業利益」では 6,504億円(前期比 -18.1%)を確保しており、世界的な鉄鋼不況の中でも相対的に高い収益力を維持しています。
業績推移(通期)
セグメント別動向
主力である製鉄事業を中心に、各セグメントで外部環境の変化に対応した経営が進められました。特に製鉄事業では、USスチールの新規連結が売上高を大きく押し上げています。
| セグメント名 | 売上収益 | 事業利益 | 利益率 |
|---|---|---|---|
| 製鉄 | 9兆2,217億円 | 4,399億円 | 4.8% |
| エンジニアリング | 3,944億円 | 231億円 | 5.9% |
| ケミカル&マテリアル | 2,579億円 | 219億円 | 8.5% |
| システムソリューション | 3,828億円 | 433億円 | 11.3% |
製鉄事業は、売上収益が前年比 17.1%増 の 9兆2,217億円 となりました。国内では生産設備構造対策による固定費削減や、品種高度化による限界利益の引き上げに注力しました。海外では2025年6月に完了したUSスチールの買収により、米国市場への本格参入を果たし、同社だけで約 1.9兆円 の売上を上積みしました。しかし、中国経済の減速による鋼材の過剰輸出が国際市況を悪化させ、マージンが圧縮されたことが利益面での課題となりました。
システムソリューション事業(日鉄ソリューションズ)は、DX需要の拡大を背景に増収増益を達成しました。売上収益は 3,828億円(前年比 +12.8%)、事業利益は 433億円(前年比 +11.6%)と好調です。生成AIの活用促進や、製造業向けの基幹システム刷新案件が寄与しており、グループ全体の収益を支える第2の柱としての存在感を強めています。
| セグメント | 売上高 | 構成比 | 営業利益 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|---|
| 製鉄 | 9.2兆円 | 92% | 4,400億円 | 4.8% |
| エンジニアリング | 3,945億円 | 4% | 231億円 | 5.9% |
| ケミカル&マテリアル | 2,580億円 | 3% | 220億円 | 8.5% |
| システムソリューション | 3,829億円 | 4% | 433億円 | 11.3% |
財務状況と資本政策
当期末の総資産は、USスチールの連結化により前期末から 3兆7,181億円 増加し、14兆6,605億円 となりました。負債についても、買収資金の調達により有利子負債が 5兆1,742億円 まで膨らみ、資本構成には大きな変化が生じています。親会社所有者帰属持分比率は前期末の 49.2% から 37.7% へと低下しましたが、劣後ローンなどのパーマネントファイナンスを組み入れることで、財務健全性の維持を図っています。
配当政策については、中間配当として1株当たり 60円(分割前)、期末配当として 12円(分割後)を実施しました。2025年10月付で実施した1対5の株式分割を考慮した年間配当金は 24円 となり、USスチール合併に伴う一過性損失を除いたベースでの配当性向は 30%程度 を維持しています。将来の成長投資と株主還元のバランスを重視する姿勢を継続しています。
通期見通し
2027年3月期の通期業績予想については、USスチールの通年寄与を見込み、売上収益 11兆円 とさらなる増収を計画しています。当期利益は一過性費用の剥落により 2,200億円 とV字回復を見込んでいます。
| 項目 | 2026年3月期実績 | 2027年3月期予想 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 10兆632億円 | 11兆0,000億円 | +9.3% |
| 事業利益 | 5,141億円 | 5,300億円 | +3.1% |
| 当期利益 | 171億円 | 2,200億円 | +1182% |
会社側は、次期を「2030中長期経営計画」の実行初年度と位置づけ、実力利益1兆円以上の実現に向けた構造改革を加速させます。特にUSスチールの収益改善施策により、同社単体で 1,000億円以上 の利益貢献を見込んでいます。ただし、現時点では中東情勢による物流や原燃料コストへの影響を合理的に算出できないとして、予想数値には含めておらず、今後の外部環境の変化には注視が必要です。
リスクと課題
日本製鉄が直面している主なリスクとして、以下の要因が挙げられます。
- 中国の鋼材過剰生産: 中国国内の需要低迷により、安価な鋼材がアジア市場に流入し、国際市況の低迷が長期化する懸念があります。
- 地政学リスク: 中東情勢の緊迫化に伴うエネルギー価格の上昇や、サプライチェーンの分断が、製造コストや輸出に悪影響を及ぼす可能性があります。
- USスチールの統合プロセス: 巨大な組織の統合(PMI)において、想定通りのシナジーが創出できるか、また現地の労働環境や通商規制への対応が焦点となります。
- 脱炭素への投資負担: 「カーボンニュートラルビジョン2050」の実現に向け、電炉の新設や水素還元製鉄の研究開発に巨額の投資が必要であり、中長期的な財務負担となります。
今回の決算は、まさに「産みの苦しみ」を象徴する内容と言えます。売上高10兆円突破は、日本企業として世界トップクラスの鉄鋼メーカーに躍り出たことを示す歴史的な節目ですが、純利益の激減はUSスチールという巨大な獲物を飲み込むための「一時的な消化不良」に近い状態です。
投資家が注目すべきは、表面上の純利益ではなく、会社が強調する「実力利益」の推移です。世界的に鉄鋼市況が悪化する中で、在庫評価損を除いた利益を確保できている点は、これまでの国内設備集約などの構造改革が実を結んでいる証拠です。
今後は、買収したUSスチールの収益性をいかに早期に引き上げられるか、そして中国勢の安値攻勢に対して、高付加価値な「品種高度化」でどこまでマージンを守り抜けるかが、株価および企業価値回復の鍵を握るでしょう。就活生にとっては、伝統的な素材メーカーから、グローバルM&Aとテクノロジー(DX/水素製鉄)を駆使する「総合素材ソリューション企業」への変革期にある非常にエキサイティングなフェーズとして映るはずです。
