日本製鉄・2026年3月期Q3、売上高10%増の7.2兆円も450億円の最終赤字——米USスチール買収と事業再編損が響く
売上高
7.3兆円
+10.7%
通期予想
10.0兆円
営業利益
1,071億円
-81.1%
純利益
-45,002百万円
通期予想
-70,000百万円
営業利益率
1.5%
日本製鉄は24日、2026年3月期第3四半期の連結最終損益(IFRS)が 450億円の赤字 に転落したと発表した。売上高は前年同期比 10.7%増 の 7兆2,563億円 と増収を確保したものの、米USスチールの連結子会社化に伴う一時的費用や、国内拠点の構造改革に伴う 事業再編損2,490億円 の計上が利益を大きく押し下げた。歴史的な巨額買収による世界展開の加速と、国内事業の最適化という「攻めと守り」の構造改革が同時に進む決算となった。

業績のポイント
当第3四半期の業績は、売上高が 7兆2,563億円(前年同期比 +10.7%)と伸長した一方で、本業の儲けを示す事業利益は 3,561億円(同 -37.1%)、親会社の所有者に帰属する四半期利益は 450億円の赤字(前年同期は3,620億円の黒字)となりました。増収の主因は、2025年6月に完了した 米USスチールの買収 により、同社の業績が連結加算されたことにあります。買収後の約半年間でUSスチール単体では 1兆2,715億円 の売上を記録し、グループ全体の収益規模を大きく底上げしました。
利益面で大幅な減益・赤字となった背景には、複数の非継続的な要因が重なっています。まず、国内事業の収益性改善を目的とした生産体制の最適化に伴い、2,490億円 の 事業再編損 を計上しました。さらに、USスチール買収に関連したクロージング・ボーナスなどの一時的費用や、棚卸資産の公正価値評価に伴う売上原価の増加も利益を圧迫しました。これらは将来の成長と収益安定化に向けた「膿出し」の側面が強く、一時的な財務指標の悪化を容認してでも構造改革を優先した経営判断と言えます。
業績推移(通期)
セグメント別動向
主力の製鉄事業は、USスチールの連結化により売上収益が 6兆6,262億円(前年同期比 +11.2%)となりました。しかし、セグメント利益(事業利益ベース)は 3,143億円(同 -39.5%)と苦戦しています。これは、原材料価格の高騰に対し製品価格への転嫁が追いつかない「スプレッドの縮小」に加え、前述の買収関連費用や事業再編損の大部分がこのセグメントに集中したためです。
一方、多角化セグメントは概ね堅調に推移しており、グループ全体の収益を支える役割を果たしています。特にシステムソリューション事業は、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)需要を背景に、利益率 14.3% と高い水準を維持しました。
| セグメント名 | 売上収益 | 事業利益 | 営業利益率(%) |
|---|---|---|---|
| 製鉄 | 6兆6,262億円 | 3,143億円 | 4.7% |
| エンジニアリング | 2,427億円 | 119億円 | 4.9% |
| ケミカル&マテリアル | 1,776億円 | 146億円 | 8.2% |
| システムソリューション | 2,095億円 | 300億円 | 14.3% |
| セグメント | 売上高 | 構成比 | 営業利益 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|---|
| 製鉄 | 6.6兆円 | 91% | 3,143億円 | 4.7% |
| エンジニアリング | 2,427億円 | 3% | 120億円 | 4.9% |
| ケミカル&マテリアル | 1,776億円 | 2% | 146億円 | 8.2% |
| システムソリューション | 2,096億円 | 3% | 300億円 | 14.3% |
財務状況と資本政策
資産合計は前連結会計年度末から 3兆5,006億円 増加し、14兆4,430億円 となりました。この急増は、USスチールの買収に伴い、同社の有形固定資産やのれん、無形資産が加わったことによるものです。一方で、買収資金の調達により有利子負債も増加しており、親会社所有者帰属持分比率は前年末の 49.2% から 36.8% へと低下しました。財務の健全性を示す指標は一時的に悪化していますが、これはグローバル成長への投資に伴う 意図的なレバレッジの活用 と評価できます。
配当については、中間配当を 60円(株式分割考慮前換算)とし、期末配当予想を 12円(分割後)としています。2025年10月に実施した 1対5の株式分割 を考慮すると、年間配当は実質的に前年並みの水準を維持する方針です。巨額買収と赤字計上という局面においても、株主還元の手を緩めない姿勢を示しています。
リスクと課題
会社側は今後の経営リスクとして、主に以下の点を挙げています。
- グローバル拠点の統合シナジー: USスチールの買収により粗鋼生産能力は 8,200万トン まで拡大しましたが、高付加価値商品の技術供与やコスト削減策を早期に軌道に乗せられるかが焦点となります。
- 国内需要と構造改革: 日本国内の人口減少や製造業の海外移転に伴う鋼材需要の減少に対応するため、さらなる生産設備の休止や集約が必要になるリスクがあります。
- カーボンニュートラル対応: 「高炉水素還元」や「大型電炉での高級鋼製造」など、脱炭素化に向けた巨額のR&D投資が必要であり、これが中長期的なキャッシュフローの負担となる可能性があります。
通期見通し
2026年3月期の通期連結業績予想について、売上高は 10兆円 を見込む一方、最終損益は 700億円の赤字 となる見通しを据え置きました。USスチールの通期連結化による増益効果よりも、買収に伴う会計上の処理費用や国内の事業再編損の影響が上回る計算です。ただし、USスチール自体は買収後も黒字を維持しており、一時的な会計上の赤字を除いた 実質的な稼ぐ力 は着実に強化されていると強調しています。
| 項目 | 前回予想 | 今回予想(2026/2/5発表) | 前期実績 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 9兆円 | 10兆0,000億円 | 8兆8,680億円 |
| 事業利益 | 6,500億円 | 4,200億円 | 6,835億円 |
| 親会社所有者当期利益 | 3,000億円 | △700億円 | 5,493億円 |
戦略トピック:USスチール買収の完了と「世界No.1」への布石
日本製鉄は2025年6月18日、総額約2兆円にのぼる United States Steel Corporation(USスチール)の買収を完了 しました。これにより、同社は米国という先進国最大の鉄鋼市場において、上工程からの一貫生産体制を確保したことになります。米国市場は安価なエネルギー供給を背景に「製造業の国内回帰」が進んでおり、自動車用鋼板や電磁鋼板などの高級鋼需要の伸びが期待されています。
今後は、日本製鉄が持つ世界最高水準の技術力をUSスチールの拠点に導入し、収益性を引き上げる方針です。特に、電気自動車(EV)向けの高機能鋼材などの分野で相乗効果を狙います。この買収は、単なる規模の拡大ではなく、「グローバル粗鋼1億トン体制」 の構築と、付加価値の高いポートフォリオへの転換を実現するための最重要戦略と位置づけられています。
日本製鉄の今決算は、まさに「歴史的な転換点」を数値化した内容といえます。450億円の最終赤字という見出しは衝撃的ですが、その中身はUSスチールの連結化と、国内事業の抜本的な整理(2,490億円の再編損)という、将来の成長のための「先行投資」と「外科手術」が凝縮されています。
- 評価すべき点: 停滞する国内市場に固執せず、成長が見込める米国市場へ2兆円を投じて飛び込んだ決断力です。買収後半年でUSスチールが約82億円の純利益をグループにもたらしており、買収自体は「負の遺産」ではなく「収益源」として機能し始めています。
- 懸念点: 財務レバレッジの急速な上昇です。自己資本比率が30%台まで低下したことで、今後の金利動向や景気後退局面での耐性が試されます。また、米国内の政治的・労働環境的な摩擦をいかにコントロールし、技術シナジーを早期に発現させるかが、投資家が最も注視するポイントになるでしょう。
- 就活生への視点: 「古い重厚長大産業」というイメージから、ダイナミックなM&Aとグローバル経営を行う「国際企業」への変貌が鮮明になりました。短期的赤字を恐れず構造改革を断行する経営スピードは、キャリア形成の舞台としても非常に刺激的な環境といえます。
