ANAホールディングス・2026年3月期通期、売上高2兆5,392億円で過去最高を更新——純利益10.5%増、貨物大手NCAの統合が寄与
売上高
2.5兆円
+12.3%
通期予想
2.8兆円
営業利益
2,174億円
+10.6%
通期予想
1,500億円
純利益
1,691億円
+10.5%
通期予想
960億円
営業利益率
8.6%
ANAホールディングスが発表した2026年3月期連結決算は、売上高が前期比 12.3%増 の 2兆5,392億円 、純利益が 10.5%増 の 1,690億円 となり、増収増益で着地した。旺盛な訪日旅客需要とレジャー需要を背景に国際・国内線ともに好調を維持したほか、2025年8月に子会社化した日本貨物航空(NCA)の新規連結が収益を大きく押し上げた。財務面では第1回社債型種類株式の発行により自己資本を強化し、自己資本比率は 37.7% まで回復している。
ANAホールディングス 2026年3月期 通期決算
さくら × けんじ の対話形式解説
業績のポイント
当期の連結業績は、航空需要の完全な回復と戦略的な事業拡大により、極めて堅調な結果となった。売上高は 2兆5,392億円 (前期比 +12.3% )と過去最高を更新し、本業の儲けを示す営業利益も 2,174億円 (同 +10.6% )と力強い伸びを見せた。この成長を牽引したのは、活発な訪日外客による国際線旅客収入の増加と、貨物事業における大規模なM&Aの成功である。
費用面では、運航規模の拡大に伴う燃油費の増加や、将来の成長に向けた人件費の引き上げが重荷となったが、増収効果がこれらを十分に吸収した格好だ。特に国際線では、欧州路線の新規就航や増便が奏功し、旅客数は前期比 11.8%増 の 902万人 に達した。親会社株主に帰属する当期純利益も 1,690億円 (同 +10.5% )を計上し、コロナ禍からの完全復活を印象づける決算となった。
| 項目 | 2025年3月期実績 | 2026年3月期実績 | 前年同期比 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 2兆2,618億円 | 2兆5,392億円 | +12.3% |
| 営業利益 | 1,966億円 | 2,174億円 | +10.6% |
| 経常利益 | 2,000億円 | 2,196億円 | +9.8% |
| 当期純利益 | 1,530億円 | 1,690億円 | +10.5% |
業績推移(通期)
セグメント別動向
主力の航空事業は、売上高が 2兆3,132億円 (前期比 +12.4% )、営業利益が 2,219億円 (同 +11.5% )とグループ全体の成長を牽引した。ANAブランドの国際線旅客は、シンガポール航空との共同事業開始や機内Wi-Fi無料化などのサービス拡充により、旅客収入は 8,789億円 (同 +9.1% )に伸長した。また、日本貨物航空(NCA)の連結化により、貨物収入が新たに 1,089億円 加わったことが、航空事業の収益基盤を大きく底上げしている。
航空関連事業は、売上高こそ 3,616億円 (前期比 +7.2% )と増収を確保したものの、営業利益は 14億円 (同 -63.9% )と大幅な減益に沈んだ。これは、外国航空会社からの地上支援業務(ハンドリング)受託が増加した一方で、深刻な人手不足への対応として人件費を大幅に増額したことが要因だ。物流の取扱高は拡大しているものの、コスト増を価格転嫁しきれていない現状が浮き彫りとなった。
商社事業は、大阪・関西万博の開催効果によるリテール部門の好調や、半導体関連の電子事業が伸びたことで、売上高は 1,542億円 (前期比 +18.7% )、営業利益は 75億円 (同 +65.6% )と躍進した。一方で、旅行事業については「ANAトラベラーズ」のダイナミックパッケージが国内レジャー需要の変化に苦戦し、営業損益は 1億円の赤字 (前期は1億円の黒字)に転落した。
| セグメント | 売上高 | 営業利益 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|
| 航空事業 | 2兆3,132億円 | 2,219億円 | 9.6% |
| 航空関連事業 | 3,616億円 | 14億円 | 0.4% |
| 旅行事業 | 653億円 | △1億円 | - |
| 商社事業 | 1,542億円 | 75億円 | 4.9% |
| セグメント | 売上高 | 構成比 | 営業利益 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|---|
| 航空事業 | 2.3兆円 | 91% | 2,219億円 | 9.6% |
| 航空関連事業 | 3,616億円 | 14% | 15億円 | 0.4% |
| 旅行事業 | 653億円 | 3% | -146百万円 | — |
| 商社事業 | 1,542億円 | 6% | 76億円 | 4.9% |
財務状況と資本政策
当期末の総資産は、NCAの連結化に伴う航空機の増加などにより、前期末から 3,348億円 増加して 3兆9,551億円 となった。一方で、有利子負債は劣後ローンの返済を進めた結果、前期末比で 1,773億円 減少の 1兆1,717億円 まで圧縮されている。攻めの投資と並行してデット(負債)の削減を徹底し、財務の健全性を着実に高めている。
資本政策においては、2025年12月に実施した第1回社債型種類株式の発行(1,950億円)が大きな転換点となった。これにより純資産は 1兆5,026億円 と大幅に増加し、自己資本比率は前期末の31.2%から 37.7% へと急改善した。配当についても、好調な業績を反映して普通株式の期末配当を前期比5円増の 65円 とし、株主還元への姿勢を強めている。
通期見通し
2027年3月期の連結業績予想について、同社は増収減益という慎重な見通しを公表した。売上高は前期比 9.1%増 の 2兆7,700億円 を見込む一方、営業利益は 31.0%減 の 1,500億円 、純利益は 43.2%減 の 960億円 に留まる予想だ。増収の柱は引き続き国際線旅客とNCAのフル寄与を見込むが、利益面では外部環境の悪化を厳しく見積もっている。
減益の主な要因は、高止まりする燃油価格と想定以上の円安進行、および地政学リスクに伴う運航コストの上昇である。同社はドバイ原油価格を1バレルあたり平均90ドル前後、為替を1ドル155円と想定している。また、国内線での競争激化や人件費負担の継続的な増加も、利益を押し下げる要因として織り込まれている。ただし、通期での配当予想は中間・期末合わせて 60円 とし、安定した還元を継続する方針だ。
| 項目 | 2026年3月期実績 | 2027年3月期予想 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 2兆5,392億円 | 2兆7,700億円 | +9.1% |
| 営業利益 | 2,174億円 | 150,000億円 | △31.0% |
| 親会社株主純利益 | 1,690億円 | 960億円 | △43.2% |
リスクと課題
今後の経営における最大のリスクは、中東情勢やウクライナ情勢の長期化に伴う地政学リスクの波及である。これらは航空機の迂回運航による燃料消費の増加や、燃油サーチャージによる旅客需要の抑制を招く懸念がある。また、同社は2027年4月に貨物事業子会社3社(ANA Cargo、NCA、NCA Japan)を統合する予定であり、この大規模な組織再編に伴うPMI(統合プロセス)の成否が、次世代の収益源となる貨物事業の競争力を左右することになる。
加えて、労働市場の逼迫に伴う人件費の上昇や、整備士・パイロットなどの専門人材の確保も喫緊の課題だ。同社はDX投資の加速や機材の小型化による需給適合を進めるとしているが、コスト増を上回る付加価値をサービスとして提供し続けられるかが、中長期的な利益率向上の鍵を握っている。
ANAホールディングスの今期決算は、数字の上では「完全復活」を超えた「新成長フェーズ」への突入を感じさせる内容です。
注目すべきは、単なる旅客需要の回復に依存せず、NCAの買収による貨物事業の強化と社債型種類株式による資本増強という、攻めと守りの両輪を同時に回した経営判断です。特に、自己資本比率を30%台後半まで一気に引き上げたことは、将来の機材投資や不測の事態への耐性を大幅に高めました。
一方で、来期予想における3割以上の営業減益見通しは、航空業界がいかに外部環境(燃油・為替・地政学)に翻弄されやすいかを改めて示しています。投資家としては、慎重すぎるほどの予想を「保守的」と捉えるか、あるいは「コスト構造の悪化」と捉えるかが分かれ目となるでしょう。
就活生にとっては、航空関連事業や旅行事業での苦戦から見える通り、同社が「空を飛ぶ」こと以外の事業ドメインでいかに収益性を確保しようとしているか、その多角化戦略の最前線に注目することが企業理解の助けになるはずです。
