業界ダイジェスト
東京電力ホールディングス株式会社 の会社詳細
東京電力ホールディングス株式会社
東京電力ホールディングス
2026年3月期 通期

東京電力HD・2026年3月期通期、経常利益64%増の4,173億円——廃炉費用の見積もり見直しで4,542億円の最終赤字に転落

東京電力HD
最終赤字
災害特別損失
廃炉費用
期ずれ影響
燃料デブリ
無配継続
インフラ
エネルギー政策
JERA
通期1年間の確定値(前年比)

売上高

6.3兆円

-7.1%

営業利益

3,377億円

+44.0%

純利益

-454,263百万円

営業利益率

5.3%

東京電力ホールディングスが発表した2026年3月期決算は、燃料価格の下落に伴う期ずれ影響の好転により、本業の儲けを示す経常利益が4,173億円(前年比+64.0%)と大幅な増益を記録しました。しかし、福島第一原子力発電所の廃炉に向けた「燃料デブリ取り出し」の費用見積もりを大幅に引き直したことで、9,138億円もの災害特別損失を計上しました。この巨額の特別損失が響き、最終的な親会社株主に帰属する当期純損益は4,542億円の赤字(前期は1,612億円の黒字)に転落しています。

トーク

東京電力ホールディングス 2026年3月期 通期決算

さくら × けんじ の対話形式解説

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業績のポイント

2026年3月期の売上高は、販売電力量の減少や燃料価格の下落を反映した燃料費調整制度による単価下落の影響で、前年比7.1%減6兆3,285億円となりました。一方で、利益面では収支構造が劇的に改善しています。燃料価格の変動が電気料金に反映されるまでのタイムラグによって生じる「期ずれ影響」が大幅にプラスへ働いたほか、継続的なコスト削減努力が実を結び、営業利益は3,376億円(前年比+44.0%)に拡大しました。

特筆すべきは、営業外収益に含まれる持分法投資損益が1,383億円(前年比+38.1%)と好調だったことです。これにより、経常利益は4,173億円(前年比+64.0%)まで伸び、電力需給の安定と収益性の回復を印象付けました。しかし、こうした本業の回復分を上回る「福島への責任」に伴うコスト増が、最終損益に重くのしかかりました。

項目2025年3月期2026年3月期前年比
売上高6兆8,103億円6兆3,285億円△7.1%
営業利益2,344億円3,376億円+44.0%
経常利益2,544億円4,173億円+64.0%
親会社株主に帰属する当期純利益1,612億円△4,542億円

業績推移(通期)

売上高営業利益

セグメント別動向

小売事業を担うエナジーパートナーセグメントが、全社利益の牽引役となりました。同セグメントの利益は2,549億円(前年比△11.4%)となりました。前年比では微減となりましたが、依然として高い利益水準を維持しています。これは、燃料費調整制度における期ずれ影響の好転が利益を押し上げたためです。

送配電事業のパワーグリッドは、修繕費などの費用増加を効率化で補い、セグメント利益817億円(前年比+48.8%)と大幅な増益を達成しました。また、燃料調達や火力発電を担うJERAの持分を保有するフュエル&パワーも、海外事業の好調などを背景にセグメント利益833億円(前年比+44.4%)と好調に推移しました。

セグメント名売上高(外部顧客)セグメント利益利益の前年比
ホールディングス2,127億円1,289億円
フュエル&パワー37億円833億円+44.4%
パワーグリッド1兆2,256億円817億円+48.8%
エナジーパートナー4兆8,349億円2,549億円△11.4%
リニューアブルパワー515億円403億円△24.7%

再生可能エネルギー事業のリニューアブルパワーは、売上高が515億円(前年比△41.9%)、セグメント利益が403億円(前年比△24.7%)と減収減益となりました。前年度と比較して卸電力市場価格が落ち着いたことなどが影響したとみられます。

セグメント売上高構成比営業利益営業利益率
ホールディングス2,127億円3%1,290億円60.6%
フュエル&パワー37億円0%833億円
パワーグリッド1.2兆円19%817億円6.7%
エナジーパートナー4.8兆円76%2,550億円5.3%
リニューアブルパワー515億円1%404億円78.4%

財務状況と資本政策

財務基盤については、巨額の最終赤字を計上したことで、純資産が前年度末から3,677億円減少し、3兆4,183億円となりました。この結果、財務の健全性を示す自己資本比率は21.8%となり、前年度末の25.1%から3.3ポイント悪化しています。福島第一原発の事故対応という「特有の重責」が、資本の蓄積を阻む構図が続いています。

配当については、親会社株主に帰属する当期純損失を計上したことや、依然として厳しい財務状況に鑑み、普通株式およびA種・B種優先株式のすべてにおいて無配を継続することを決定しました。投資家にとって期待される復配の時期については、2027年3月期(次期)の予想においても「0円」としており、まずは「廃炉と復興」のための資金確保を最優先する姿勢が鮮明になっています。

キャッシュ・フロー面では、営業活動によるキャッシュ・フローが5,603億円の収入(前年比+1,990億円)と増加しました。これは主に災害損失引当金の積み増しに伴うもので、本業での現金創出力は維持されています。投資活動では固定資産の取得などで6,636億円の支出を行っており、電力供給の安定に向けた設備投資は継続されています。

リスクと課題

東京電力グループが直面する最大の経営課題は、依然として福島第一原子力発電所の廃炉事業です。今期、燃料デブリ取り出しにかかる作業工程の精査や技術的検討により、将来の費用見積もりを9,030億円引き上げました。この不透明な廃炉費用が、今後も業績を大きく揺さぶるリスク要因として残ります。

  • 燃料価格・地政学リスク: 中東情勢の緊迫化により、LNGや原油価格が急騰すれば、期ずれ影響が再び悪化し、収益を圧迫する可能性があります。
  • 原子力発電所の再稼働: 柏崎刈羽原子力発電所の再稼働時期は、同社の収支改善に向けた最大の鍵となります。現在、安全対策工事や地域の理解獲得を進めていますが、遅延した場合は火力燃料費の負担が重くのしかかります。
  • 金利上昇リスク: 有利子負債残高が6兆6,337億円(総資産の約43%)に達しており、今後の金利上昇が支払利息の増加を通じて純利益を押し下げる懸念があります。

通期見通し

2027年3月期の連結業績予想については、現時点では「未定」としています。中東情勢の緊迫化など外部環境の先行きが極めて不透明であり、燃料価格や為替レートの見通しを合理的に算定することが困難であるためです。

経営陣は、市場環境が整い次第速やかに数値を公表するとしていますが、投資家の視線は、営業キャッシュ・フローをいかに安定させ、廃炉費用という巨額の不確定要素をどうコントロールしていくかに注がれています。

AIアナリストの視点

今回の決算は、東京電力HDが抱える「本業の回復」と「事故対応の重圧」という二面性が極めて鮮明に出た内容といえます。

  • 評価ポイント: 燃料費調整の期ずれがプラスに転じたとはいえ、営業利益で3,000億円超を叩き出したことは、同社の基盤となる電力供給事業の収益性が改善している証拠です。特にエナジーパートナー部門の利益貢献は、高騰していた燃料価格が一段落した局面での底堅さを示しています。
  • 懸念ポイント: 最大の懸念は、やはり廃炉費用の不透明さです。今回、見積もりを約9,000億円も上方修正し、巨額の赤字を計上したことは、市場に対して「廃炉コストは今後も膨らみ続けるのではないか」という不安を植え付けました。自己資本比率の低下も相まって、財務的なクッションが薄くなっている点は否めません。
  • 今後の焦点: 結局のところ、柏崎刈羽原発の再稼働による構造的なコスト削減を実現しなければ、廃炉費用という巨大な「負の遺産」を本業の利益だけで賄い続けるのは至難の業です。次期の業績予想が「未定」であることも、同社が抱える地政学・政策的リスクの大きさを物語っています。投資家にとっては、利益の絶対額よりも、キャッシュ・フローの持続性と制度的な支援枠組みの安定性に注目が集まる局面が続くでしょう。