三菱ケミカルG・2026年3月期通期、純利益73.7%減の118億円——製薬事業譲渡で構造改革急ぐ、産業ガスは過去最高益
売上高
3.7兆円
-6.2%
通期予想
3.8兆円
営業利益
301億円
-78.8%
通期予想
3,000億円
純利益
118億円
-73.7%
通期予想
1,270億円
営業利益率
0.8%
三菱ケミカルグループが13日に発表した2026年3月期通期決算は、売上収益が前年同期比 6.2%減 の 3兆7,040億円、最終的な親会社株主に帰属する当期純利益が同 73.7%減 の 118億円 となった。主力の 田辺三菱製薬(現・田辺ファーマ)の事業譲渡 に伴う事業再編が進む一方、化学市況の低迷や減損損失の計上が利益を押し下げた。実力値を示すコア営業利益は 2,250億円(前年比 1.7%減)と微減に留まり、産業ガス事業の好調が下支えする格好となった。
業績のポイント
当期の業績は、ポートフォリオ改革の大きな転換点となった。売上収益は 3兆7,040億円 と前年から 2,436億円 減少したが、これは 田辺三菱製薬の連結除外(非継続事業への分類) による影響が大きい。利益面では、事業撤退や資産の見直しに伴う非経常的な費用を除いた「コア営業利益」が 2,250億円 となり、前年の 2,288億円 からほぼ横ばいを維持した。一方で、報告ベースの営業利益は、英国におけるソアノール関連固定資産の減損損失や、コークス事業の撤退に関連する リストラクチャリング費用 の計上により、前年比 78.8%減 の 301億円 に沈んだ。
世界経済は米国や日本で底堅い推移を見せたものの、中国の景気停滞や中東情勢の緊迫化による原燃料価格の高騰が影を落とした。特に化学品部門では、MMA(メタクリル酸メチル)の市況下落が売買差を悪化させ、大幅な利益圧迫要因となった。しかし、製薬事業の譲渡という「外科手術」を終えたことで、今後は高収益なスペシャリティ分野への投資を加速させる構えだ。
| 指標 | 2025年3月期 | 2026年3月期 | 前年比 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 3兆9,476億円 | 3兆7,040億円 | △6.2% |
| コア営業利益 | 2,288億円 | 2,250億円 | △1.7% |
| 営業利益 | 1,416億円 | 301億円 | △78.8% |
| 当期純利益 | 450億円 | 118億円 | △73.7% |
業績推移(通期)
セグメント別動向
セグメント別では、産業ガス事業が全体を強力に牽引した。産業ガスセグメント は、売上収益が前年比 3.9%増 の 1兆3,525億円、コア営業利益は同 7.8%増 の 2,007億円 と過去最高水準を更新した。欧米での販売数量こそ微減したものの、徹底した価格管理(価格マネジメント)と、オーストラリア等での企業買収効果が利益を押し上げた。現在、グループ全体のコア営業利益の約9割をこのセグメントが稼ぎ出す構造となっている。
対照的に、素材関連は市況悪化の直撃を受けた。MMA&デリバティブズセグメント は、主力のMMAモノマー市況の下落により 15億円の営業赤字(前期は357億円の黒字)に転落した。また、ベーシックマテリアルズ&ポリマーズセグメント も、ポリオレフィン等の需要低迷により 42億円の営業赤字 を継続した。ただし、構造改革によるコスト削減が奏功し、赤字幅は前期(146億円の赤字)から縮小している。
スペシャリティマテリアルズセグメント は、売上高こそ 1兆596億円(前年比 1.1%減)と微減したが、コア営業利益は 323億円(同 35.2%増)と大幅な増益を達成した。EV向けの需要減退はあったものの、半導体製造装置向けのエンジニアリングプラスチック が堅調に推移したほか、炭素繊維コンポジットパーツの増販が寄与した。
| セグメント | 売上収益 | コア営業利益 | 前年比(利益) |
|---|---|---|---|
| スペシャリティマテリアルズ | 1兆596億円 | 323億円 | +35.2% |
| MMA&デリバティブズ | 3,519億円 | △15億円 | 赤字転落 |
| ベーシックマテリアルズ | 7,907億円 | △42億円 | 赤字縮小 |
| 産業ガス | 1兆3,525億円 | 2,007億円 | +7.8% |
| セグメント | 売上高 | 構成比 | 営業利益 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|---|
| スペシャリティマテリアルズ | 1.1兆円 | 29% | 323億円 | 3.1% |
| MMA&デリバティブズ | 3,519億円 | 10% | -1,538百万円 | -0.4% |
| ベーシックマテリアルズ&ポリマーズ | 7,907億円 | 21% | -4,159百万円 | -0.5% |
| 産業ガス | 1.4兆円 | 37% | 2,007億円 | 14.8% |
財務状況と資本政策
財務体質は、大型の事業譲渡を経て大きく改善した。2026年3月末の資産合計は 5兆8,766億円 と前期末から微減したが、田辺三菱製薬の譲渡対価として 約5,175億円のキャッシュ が入金されたことで、手元資金が大幅に厚くなった。これを受け、有利子負債は前期末比で 1,566億円減少 の 2兆219億円 となり、財務の健全性を示すネットD/Eレシオは 0.83(前期末は1.06)まで改善している。
株主還元については、当期の年間配当を前期と同額の 32円 とした。また、機動的な資本政策の一環として、当期中に 500億円の自己株買い を実施した。純利益の減少により配当性向は一時的に 370.8% まで上昇しているが、会社側はキャッシュフローを重視した安定的な還元方針を維持する意向だ。
リスクと課題
今後の懸念事項として、会社側は以下のリスクを挙げている。
- 原燃料価格の変動: 中東情勢の緊迫化に伴うナフサ価格の高騰が、素材部門の採算を再び悪化させるリスクがある。
- 中国経済の不透明感: 化学品市況の回復には中国の需要拡大が不可欠だが、足元の景気刺激策の効果は不透明。
- 地政学リスク: ホルムズ海峡の封鎖といった事態が発生した場合、想定為替レート(1ドル=150円)や原燃料価格の前提が崩れ、コア営業利益で約180億円の下振れ要因になり得ると試算している。
- 構造改革の完遂: 石化事業の再編など、残された低収益事業の切り離しや収益化が引き続き最優先課題となる。
通期見通し
2027年3月期の業績予想は、構造改革の成果が表面化し、大幅な増益を見込んでいる。売上収益は前年比 2.6%増 の 3兆8,000億円、コア営業利益は同 35.6%増 の 3,050億円 を計画する。製薬事業の切り離しが完了し、高付加価値な素材事業と安定成長の産業ガス事業にリソースを集中させることで、収益性の底上げを図る方針だ。
| 項目 | 2026年3月期実績 | 2027年3月期予想 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 3兆7,040億円 | 3兆8,000億円 | +2.6% |
| コア営業利益 | 2,250億円 | 3,050億円 | +35.6% |
| 親会社株主に帰属する当期純利益 | 118億円 | 1,270億円 | +973.6% |
三菱ケミカルグループにとって、2026年3月期は「出血を伴う大手術」の年でした。田辺三菱製薬という巨大な事業を切り離したことで、売上規模は縮小しましたが、懸案だった財務体質の改善は急速に進んでいます。
投資家としての注目点は以下の通りです。
- 産業ガスへの一本足打倒: コア営業利益のほとんどを日本酸素HD(産業ガス)が稼いでいる現状から、素材部門(スペシャリティマテリアルズ)がどれだけ利益貢献度を高められるかが焦点です。
- 来期のV字回復: 純利益が10倍以上になるという強気の予想は、あくまで非経常的な損失が出ないことを前提としています。構造改革が一巡し、本来の「稼ぐ力」が試される1年になるでしょう。
- 就活生への視点: 「総合化学」の看板を掛け替え、より専門性の高い素材メーカーへと変貌を遂げようとしています。従来の石化中心のイメージではなく、半導体やEV向け素材、グローバルな産業ガス展開に関心がある層には非常に面白いフェーズにあります。
