塩野義製薬・2026年3月期Q3、営業利益15.1%増の1,487億円——鳥居薬品の連結化とHIV成長が寄与、大型M&Aで攻勢
売上高
3,607億円
+8.1%
通期予想
5,000億円
営業利益
1,487億円
+15.1%
通期予想
1,850億円
純利益
1,582億円
+18.3%
通期予想
1,880億円
営業利益率
41.2%
塩野義製薬が30日に発表した2026年3月期第3四半期(2025年4〜12月)の連結決算(IFRS)は、営業利益が前年同期比 15.1%増 の 1,487億円 と大幅な増益を達成しました。主力とするHIVフランチャイズのロイヤリティー収入が堅調に推移したことに加え、2025年9月に連結子会社化した鳥居薬品の業績寄与や、JT(日本たばこ産業)の医薬事業承継に伴う「負ののれん発生益」の計上が利益を押し上げました。国内でのインフルエンザ流行による治療薬「ゾフルーザ」の販売拡大も増収に貢献しており、積極的なM&A戦略が実を結び始めています。

業績のポイント
当第3四半期累計期間の売上収益は、前年同期比 8.1%増 の 3,606億円 となりました。増収の主因は、HIV治療薬のロイヤリティー収入が順調に拡大したこと、および海外市場での抗菌薬「セフィデロコル」の普及が進んだことです。また、国内では冬場のインフルエンザ流行に伴い「ゾフルーザ」の需要が急増したほか、鳥居薬品の新規連結による売上加算が大きく寄与しました。
利益面では、営業利益が前年同期比 15.1%増 の 1,487億円、親会社の所有者に帰属する四半期利益は 18.3%増 の 1,582億円 を記録しました。米国事業における販売促進費の増加や、買収関連の研究開発費・人件費といったコスト増はあったものの、JT医薬事業の買収に伴う負ののれん発生益(暫定計上)がその他の収益として計上され、大幅な増益を支えました。税引前四半期利益も 22.7%増 の 1,912億円 と、キャッシュ創出力の高さを示す結果となっています。
| 指標 | 2025年3月期 Q3 | 2026年3月期 Q3 | 前年同期比 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 3,336億円 | 3,606億円 | +8.1% |
| 営業利益 | 1,292億円 | 1,487億円 | +15.1% |
| 税引前利益 | 1,558億円 | 1,912億円 | +22.7% |
| 四半期利益 | 1,338億円 | 1,582億円 | +18.3% |
業績推移(通期)
セグメント別動向
同社は医薬品の単一セグメントですが、主要な事業領域別の動向は極めて活発です。国内医療用医薬品の売上高は 867億円(前年同期比 9.8%増)となりました。これは、2025年9月に鳥居薬品を連結化したことで、同社の皮膚疾患やアレルゲン領域の製品群が加わったためです。さらに、インフルエンザ治療薬「ゾフルーザ」が流行期を捉えて大きく伸長し、国内事業の収益性を高めました。
海外子会社および輸出の売上高は 489億円(前年同期比 12.8%増)と、二桁増収を維持しています。特に米国・欧州で展開する多剤耐性菌治療薬「セフィデロコル(製品名:Fetroja/Fetcroja)」の販売拡大が続いており、グローバル市場での存在感を強めています。同剤は高度な医療ニーズに応えるスペシャリティ薬として、着実な症例への浸透を見せています。
屋台骨であるロイヤリティー収入は 2,013億円(前年同期比 7.8%増)に達しました。英ViiV Healthcare社からのHIV治療薬(長時間作用型注射製剤など)のロイヤリティーが成長を牽引しています。これに加え、スイス・ロシュ社からの「ゾフルーザ」関連収入や、2025年12月から新たに計上されたJT医薬事業に係るロイヤリティー収入も増収要因となりました。
| 売上内訳項目 | 2026年3月期 Q3実績 | 前年同期比 | 主な要因 |
|---|---|---|---|
| 国内医療用医薬品 | 867億円 | +9.8% | 鳥居薬品の連結、ゾフルーザの拡大 |
| 海外子会社・輸出 | 489億円 | +12.8% | セフィデロコルの米欧販売拡大 |
| ロイヤリティー収入 | 2,013億円 | +7.8% | HIVフランチャイズ、JT事業承継 |
| 売上収益合計 | 3,606億円 | +8.1% |
| セグメント | 売上高 | 構成比 | 営業利益 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|---|
| 国内医療用医薬品 | 867億円 | 24% | — | — |
| 海外子会社・輸出 | 489億円 | 14% | — | — |
| ロイヤリティー収入 | 2,013億円 | 56% | — | — |
財務状況と資本政策
2025年12月末時点の総資産は、前期末比 1,926億円増 の 1兆7,279億円 となりました。鳥居薬品の連結化やJT医薬事業の承継に伴い、のれんや無形資産、その他の金融資産が大幅に増加したことが要因です。自己資本比率(親会社所有者帰属持分比率)は 87.6% と、依然として極めて高い財務健全性を維持しており、積極的な投資を支える強固な基盤を有しています。
資本政策においては、2024年10月に実施した1対3の株式分割を考慮した配当を実施しています。今期の年間配当予想は1株当たり 66円(中間33円・期末33円)で据え置いています。キャッシュ・フロー面では、営業活動により 1,235億円 の収入を得る一方、鳥居薬品の取得やViiV社への追加出資検討など、投資活動に 2,295億円 を支出しました。手元資金は減少したものの、将来の成長に向けた資本投下を最優先する経営判断を下しています。
戦略トピック:M&Aとグローバル展開の加速
当四半期は、塩野義製薬にとって「転換点」とも言える大規模な事業再編が相次ぎました。まず、鳥居薬品の完全子会社化(スクイーズアウト)を完了し、国内での販売網とバリューチェーンを強化しました。さらにJT(日本たばこ産業)から医薬事業を譲り受け、研究開発パイプラインの拡充と既存製品からのロイヤリティー獲得を実現しています。
海外戦略では、ALS(筋萎縮性側索硬化症)治療薬「エダラボン(Radicava)」のグローバル権利獲得に向け、田辺ファーマと契約を締結しました。これにより、希少疾患領域における米国での強固な事業基盤を手に入れる見込みです。また、後発事象として発表された英ViiV Healthcare社への約3,347億円の追加出資は、同社を持分法適用関連会社化するものであり、HIV領域でのパートナーシップをさらに深め、長期的な安定収益の確保を狙う極めて重要な布石となっています。
通期見通し
2026年3月期の通期連結業績予想については、2025年10月に公表した数値を据え置いています。売上収益は前期比 14.1%増 の 5,000億円、営業利益は 18.1%増 の 1,850億円 を見込んでいます。足元の第3四半期までの進捗は堅調であり、特に第4四半期以降はJT事業や鳥居薬品の通期連結寄与がフルに反映される見通しです。
| 項目 | 前回予想(2025/10) | 通期見通し | 前期実績(2025/3) |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 5,000億円 | 5,000億円 | 4,383億円 |
| 営業利益 | 1,850億円 | 1,850億円 | 1,566億円 |
| 純利益 | 1,880億円 | 1,880億円 | 1,704億円 |
| 1株当たり利益 | 220.94円 | 220.94円 | 200.27円 |
リスクと課題
好調な業績の裏で、同社はいくつかの課題とリスクを抱えています。
- 買収・投資に伴う減価償却費の増加: 鳥居薬品やJT事業、ViiV社への出資などに伴う無形資産の償却負担が今後増大する可能性があり、コア利益への影響を注視する必要があります。
- ロイヤリティー依存の脱却: HIV領域への収益依存度は依然として高く、自社開発品の海外展開(セフィデロコル等)をどこまで加速させ、ポートフォリオを分散できるかが問われています。
- M&Aシナジーの発現: 相次ぐ買収によって組織が拡大する中、研究開発体制や国内販売網の統合を迅速に進め、期待されるシナジーを早期に具現化できるかが経営上の重要課題です。
今回の決算は、塩野義製薬が「ロイヤリティーを受け取るライセンサー」から「自らグローバルで事業を運営するメーカー」へと脱皮しようとする強い意志が感じられる内容です。
注目すべきは、単なる増益以上に、JT医薬事業や鳥居薬品、さらにViiV社への巨額出資という「攻めの資本投下」の密度です。特にViiV社を持分法適用会社化する動きは、同社のキャッシュカウであるHIV事業を盤石にする戦略的な一手と言えます。
懸念点としては、買収に伴う「負ののれん」といった一過性利益を除いた、コアな営業利益の成長性です。M&Aによるコスト増を上回るシナジーを、2027年3月期以降にどれだけ「実利」として示せるかが、中長期的な株価評価の分水嶺になるでしょう。
就活生にとっては、従来の「ロイヤリティーで稼ぐ筋肉質な組織」から、グローバルM&Aを繰り返す「ダイナミックな多国籍企業」への変革期にある同社の環境は、非常に刺激的なキャリアフィールドに見えるはずです。
