塩野義製薬・2026年3月期、売上高14%増で4期連続の過去最高——大型M&Aと海外成長が寄与、来期は売上7,000億円へ
売上高
4,997億円
+14.0%
通期予想
7,000億円
営業利益
1,667億円
+6.5%
通期予想
2,200億円
純利益
2,052億円
+20.4%
通期予想
2,100億円
営業利益率
33.4%
塩野義製薬が12日に発表した2026年3月期決算は、売上収益が前年比 14.0%増 の 4,996億7,700万円 となり、4期連続で過去最高を更新した。日本たばこ産業(JT)からの医薬事業承継や鳥居薬品の連結子会社化といった大型M&Aによる国内事業の拡大に加え、米国や欧州での自社開発品の販売が好調に推移した。営業利益も 1,667億2,500万円 (前年比 +6.5% )と過去最高を塗り替え、成長投資と高収益維持を両立させる格好となった。
業績のポイント
当期の業績は、売上収益・営業利益ともに4期連続の過去最高更新という極めて強い結果となった。親会社の所有者に帰属する当期利益は 2,051億5,900万円 (前年比 +20.4% )と大幅な増益を記録している。この利益成長の背景には、本業の成長に加え、JT医薬事業の吸収分割に伴い発生した 438億6,800万円 の負ののれん発生益(資産の取得価額が負債等を上回った際に生じる利益)をその他の収益として計上したことが大きく寄与している。
売上面では、新型コロナウイルス治療薬「ゾコーバ」の売上が流行の落ち着きにより 338億円 (前年比 △34.8% )と減少した一方、インフルエンザ薬「ゾフルーザ」や、米欧で展開する抗菌薬「セフィデロコル」が大きく成長した。さらに、ヴィーブ社からのHIV関連製品のロイヤリティー収入が 2,613億円 (前年比 +8.7% )と、安定したキャッシュ創出源として全体を下支えしている。研究開発費や販売管理費はM&Aに伴い増加傾向にあるが、売上成長がそれを上回る高い収益構造を維持している。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 | 前年比 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 4,382億円 | 4,996億円 | +14.0% |
| 営業利益 | 1,566億円 | 1,667億円 | +6.5% |
| 税引前利益 | 2,007億円 | 2,389億円 | +19.0% |
| 当期利益 | 1,704億円 | 2,051億円 | +20.4% |
業績推移(通期)
セグメント別動向(製品・地域別)
同社は医薬品の単一セグメントであるが、事業別の内訳を見ると劇的な変化が起きている。国内医療用医薬品の売上収益は 1,235億円 (前年比 +25.0% )と急増した。これは2025年9月に鳥居薬品を連結子会社化した効果に加え、同社とのコ・プロモーションによって営業体制を強化したことが要因だ。ゾコーバの減収を、不眠症治療薬「クービビック」や新規うつ病薬「ザズベイ」といった新製品の成長で補う構造へと転換が進んでいる。
海外子会社および輸出は 650億円 (前年比 +9.9% )と堅調な伸びを見せた。特に米国事業は 287億円 (前年比 +22.9% )と大きく伸長しており、自社開発の抗菌薬「セフィデロコル」が市場で高く評価されている。中国事業については医療費抑制政策の影響で 62億円 (前年比 △28.3% )と苦戦を強いられたが、欧米での成功が新薬メーカーとしてのグローバルプレゼンスを確かなものにしている。
| 売上区分 | 前期実績 | 当期実績 | 増減要因 |
|---|---|---|---|
| 国内医療用医薬品 | 988億円 | 1,235億円 | 鳥居薬品の連結化、新製品の寄与 |
| 海外子会社・輸出 | 591億円 | 650億円 | 米欧での抗菌薬販売が好調 |
| ロイヤリティー収入 | 2,404億円 | 2,613億円 | HIV薬の市場シェア拡大 |
| 配当金収入(ViiV社) | 403億円 | 524億円 | ヴィーブ社の好業績による増配 |
財務状況と資本政策
財務状態は、相次ぐM&Aと積極的な投資により大きく膨らんでいる。資産合計は前期末から約1兆円増加し 2兆5,768億円 となった。JT医薬事業の承継や鳥居薬品の完全子会社化に向けた資金調達により、流動負債の「社債および借入金」が 6,600億円 計上されている。自己資本比率は前期の88.7%から 65.4% へと低下したが、これは戦略的なレバレッジ活用によるものであり、依然として極めて強固な財務基盤を維持していると言える。
株主還元については、累進的な配当方針を継続している。2026年3月期の年間配当は、株式分割考慮後で 71円 となり、前期(分割考慮後換算で約61円相当)から実質的な増配となった。2027年3月期も 76円 への増配を見込んでおり、配当性向 30% 程度を目安に、株主への利益還元を重視する経営姿勢を鮮明にしている。
通期見通しと戦略トピック
2027年3月期の業績予想は、売上収益が前年比 40.1%増 の 7,000億円 という野心的な目標を掲げた。営業利益も 2,200億円 (前年比 +32.0% )と、5期連続の過去最高更新を狙う。この急成長の源泉は、買収した事業の通期寄与に加え、田辺ファーマから獲得した筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療薬「エダラボン(ラジカット)」事業の承継完了にある。米国での販売網を自社で確立することで、グローバル・メガファーマへの脱皮を加速させる方針だ。
| 項目 | 2026年3月期実績 | 2027年3月期予想 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 4,996億円 | 7,000億円 | +40.1% |
| 営業利益 | 1,667億円 | 220,000億円 | +32.0% |
| 親会社帰属当期利益 | 2,051億円 | 2,100億円 | +2.4% |
注:当期利益の伸びが鈍いのは、前期に計上された一過性の負ののれん発生益(約438億円)が剥落するためであり、本業の収益性はむしろ高まる見込みである。
リスクと課題
今後の焦点は、相次いで買収した事業のPMI(統合プロセス)の成否に集約される。鳥居薬品の吸収合併(2027年4月予定)やエダラボン事業の統合により、組織規模が急速に拡大しており、シナジーを早期に最大化できるかが鍵となる。また、感染症領域への依存度を下げ、QOL(生活の質)疾患領域や希少疾患領域での新薬開発を加速させているが、新薬開発には常に成功確率のリスクが伴う。加えて、為替の変動や主要国での薬価抑制政策も、グローバル展開を進める上での継続的な懸念材料である。
今回の決算で最も注目すべきは、塩野義製薬が「感染症の塩野義」という従来の枠組みを大きく超え、総合創薬企業への変貌を加速させている点です。
- JTや田辺ファーマからの事業獲得は、単なる規模拡大ではなく、自社でのグローバル販売チャネル確立という明確な意図が見えます。特に米国での「エダラボン」事業の自社運営化は、将来的な自社開発品の収益性を飛躍的に高める布石となります。
- 財務面では、多額のキャッシュをM&Aに投じつつも、負ののれんを活用してボトムライン(純利益)を確保する巧みな経営が光ります。来期予想の売上7,000億円は非常にチャレンジングですが、ロイヤリティー収入という安定基盤があるからこそ可能な攻めの姿勢と言えるでしょう。
- 就活生にとっては、国内営業からグローバル開発、そしてM&Aによる事業統合と、ダイナミックな変革期にある企業として非常に魅力的なフェーズにあります。一方で、急激な組織変化に伴う企業文化の融合が今後の隠れた課題となるかもしれません。
