村田製作所・2026年3月期Q3、売上収益2.9%増の1兆3,702億円——AIサーバー需要で増収も、のれん減損で営業利益13.3%減
売上高
1.4兆円
+2.9%
通期予想
1.8兆円
営業利益
2,030億円
-13.3%
通期予想
2,700億円
純利益
1,573億円
-21.8%
通期予想
2,200億円
営業利益率
14.8%
電子部品大手の村田製作所が発表した2026年3月期第3四半期(2025年4〜12月)の連結決算は、売上収益が前年同期比2.9%増の1兆3,702億円となった一方で、営業利益は13.3%減の2,030億円と増収減益でした。AIサーバー向けの積層セラミックコンデンサ(MLCC)需要が好調に推移したものの、通信向け部品の価格下落や、表面波フィルタ事業におけるのれんの減損損失を計上したことが利益を押し下げました。会社側は通期の売上予想を上方修正した一方、減損の影響を反映し営業利益予想を下方修正しています。
業績のポイント
当第3四半期累計期間の業績は、AIサーバー市場の急拡大という追い風を受けつつも、特定の事業部門での多額の損失計上が影を落とす結果となりました。売上収益は1兆3,702億円(前年同期比+2.9%)を確保し、特にサーバー向けコンデンサやモビリティ向けのインダクタが成長を牽引しました。しかし、利益面では製品価格の下落に加え、表面波フィルタ製品に関連して437億9,800万円ののれんの減損損失を計上したことが響き、営業利益は2,030億1,200万円(同-13.3%)に沈みました。
四半期純利益についても、減損の影響や為替が前年同期比で円高(148.74円/ドル)に振れたことで、1,573億4,800万円(同-21.8%)と大幅な減益を記録しています。ただし、操業度益の向上やコストダウンといった自助努力による増益要因もあり、事業の基礎的な収益力はAI・データセンター関連を中心に底堅さを維持しています。
| 指標 | 2025年3月期Q3 | 2026年3月期Q3 | 前年同期比 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 1兆3,314億円 | 1兆3,702億円 | +2.9% |
| 営業利益 | 2,341億円 | 2,030億円 | -13.3% |
| 税引前四半期利益 | 2,685億円 | 2,242億円 | -16.5% |
| 親会社株主帰属利益 | 2,013億円 | 1,573億円 | -21.8% |
業績推移(通期)
セグメント別動向
主力のコンポーネント事業が好調を維持する一方で、デバイス・モジュール事業が減損の影響で赤字に転落するなど、明暗が分かれました。
コンポーネントセグメントは、売上収益が8,611億4,100万円(前年同期比+10.0%)、営業利益が2,340億4,700万円(同+6.7%)と増収増益を達成しました。積層セラミックコンデンサ(MLCC)がサーバー向けを中心に幅広い用途で増加したほか、インダクタやEMI除去フィルタもモビリティ向けで順調に推移しました。AI関連の需要を取り込み、グループ全体の収益基盤を支えています。
デバイス・モジュールセグメントは、売上収益が4,980億1,900万円(同-7.5%)と苦戦し、営業利益は261億1,300万円の赤字(前年同期は180億2,100万円の黒字)となりました。スマートフォン向けの樹脂多層基板や高周波モジュールが減少したことに加え、上述の表面波フィルタ事業におけるのれんの減損損失がこのセグメントに直撃しました。通信市場の高周波化が想定より緩やかだったことが背景にあります。
| セグメント | 売上収益 | 前年比 | 営業利益 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|---|
| コンポーネント | 8,611億円 | +10.0% | 2,340億円 | 27.2% |
| デバイス・モジュール | 4,980億円 | -7.5% | ▲261億円 | -5.2% |
| その他 | 110億円 | +12.0% | ▲49億円 | - |
| セグメント | 売上高 | 構成比 | 営業利益 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|---|
| コンポーネント | 8,611億円 | 63% | 2,340億円 | 27.2% |
| デバイス・モジュール | 4,980億円 | 36% | -26,113百万円 | -5.2% |
財務状況と資本政策
当第3四半期末の総資産は、営業債権や有形固定資産の増加により、前期末比633億円増の3兆915億円となりました。自己資本比率に相当する親会社所有者帰属持分比率は84.6%と、極めて高い財務の健全性を維持しています。
資本政策においては、積極的な株主還元姿勢を継続しています。当期間中に約1,000億円の自己株式の取得を実施したほか、配当についても年間予想を前期比3円増の1株当たり60円(中間30円・期末予想30円)に据え置いています。成長投資面では、生産能力増強や生産棟の建設を中心に1,642億円(前年同期比+26.8%)の設備投資を実行し、中長期的な競争力強化に向けたリソース投入を緩めていません。
通期見通しの修正
会社側は、最新の市場環境と今回の減損損失を反映し、2026年3月期の通期連結業績予想を修正しました。売上収益は、AIサーバー需要の拡大やスマートフォンの生産台数増加、円安進行を背景に前回予想から600億円上方修正し、1兆8,000億円を見込みます。一方で、営業利益はのれんの減損影響が重く、前回予想から100億円下方修正の2,700億円(前期比-3.5%)へと引き下げました。
| 項目 | 前回予想 | 修正予想 | 前期実績 | 修正の理由 |
|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 1兆7,400億円 | 1兆8,000億円 | 1兆7,439億円 | AIサーバー需要増、円安進行 |
| 営業利益 | 2,800億円 | 2,700億円 | 2,797億円 | フィルタ事業の減損計上 |
| 当期純利益 | 2,200億円 | 2,200億円 | 2,338億円 | 為替差益の発生等で相殺 |
リスクと課題
今後の懸念材料として、以下の要因が挙げられています。
- スマホ市場の不透明感: 通信向け部品は依然としてスマホ市場の動向に左右されやすく、高周波化の進展スピードが想定を下回るリスクがあります。
- 価格競争の激化: 汎用品を中心に製品価格の下落圧力が続いており、継続的なコストダウンが不可欠な状況です。
- 為替変動リスク: 第4四半期の前提レートを1ドル=150円(前回145円)に見直しましたが、急激な円高に振れた場合は収益の押し下げ要因となります。
- 地政学・通商政策: 主要国の通商政策や地政学リスクの高まりが、エレクトロニクス市場の需給バランスを不安定にする可能性があります。
今回の決算は、現在のテクノロジー業界の構造変化を象徴する内容でした。スマートフォン向け通信部品が伸び悩む中で、AIデータセンターという新たな成長エンジンが収益を下支えしています。
特筆すべきは、表面波フィルタ事業における約438億円の減損計上です。これは過去に買収した事業の収益性が、通信市場の変化(高周波化の鈍化など)によって想定を下回ったことを認めた形ですが、このタイミングで損失を確定させたことは、負の遺産を整理しAIシフトを加速させるための経営判断と評価できます。
- 強み: MLCC(コンポーネント)での圧倒的な市場シェアと、AI需要への対応力の高さ。
- 懸念点: 通信用途(デバイス・モジュール)の成長性再定義。スマホ依存からの脱却スピード。
- 注目ポイント: 営業利益は下方修正されましたが、売上収益は過去最高水準(1.8兆円)を目指しており、需要そのものは極めて旺盛です。第4四半期の為替前提を150円に設定しており、為替感応度が高い同社にとって、実勢レートとの乖離が今後の焦点となります。
