業界ダイジェスト
セイコーエプソン株式会社 の会社詳細
セイコーエプソン株式会社
セイコーエプソン
2026年3月期 通期

セイコーエプソン・2026年3月期通期、営業利益34%減の495億円——米子会社の減損が響くも、次期は大幅増益を計画

セイコーエプソン
減益決算
のれん減損
プリンター
インクタンク
デバイス事業回復
増配予想
米国関税
V字回復
IFRS
通期1年間の確定値(前年比)

売上高

1.4兆円

+3.7%

通期予想

1.4兆円

進捗率97%

営業利益

496億円

-34.0%

通期予想

860億円

進捗率58%

純利益

182億円

-67.0%

通期予想

590億円

進捗率31%

営業利益率

3.5%

セイコーエプソンが5月1日に発表した2026年3月期(2025年度)の連結決算は、売上収益が前期比 3.7%増1兆4,132億円 と増収を確保したものの、営業利益は同 34.0%減495億円 と大幅な減益となった。主力のプリンティング事業で買収した米子会社ののれん減損損失を計上したほか、米国による関税政策の強化がコスト増を招き、利益を圧迫した格好だ。ただ、次期(2027年3月期)については減損の一巡やデバイス事業の回復により、当期利益で前期比 224%増 の大幅なV字回復を見込んでいる。

トーク

セイコーエプソン 2026年3月期 通期決算

さくら × けんじ の対話形式解説

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業績のポイント

当連結会計年度の業績は、増収を確保しながらも利益面で苦戦を強いられる結果となった。売上収益は 1兆4,132億円(前期比 +3.7%)と、プリンティングやマニュファクチャリング事業の伸びにより過去最高水準を維持した。一方で、本業の儲けを示す事業利益は 837億円(同 △6.5%)に減少。さらに、米子会社Fiery(ファイアリー)社に係る 259億円のれん減損損失を計上したことで、営業利益は 495億円(同 △34.0%)、親会社株主に帰属する当期利益は 182億円(同 △67.0%)と大きく沈み込んだ。

利益減少の主な要因は、外部環境の悪化と一過性の損失にある。Fiery社が展開する商業・産業印刷市場において、米国の関税政策を背景とした設備投資抑制が進み、将来の収益計画を慎重に見直したことが減損につながった。また、米国向けの関税コスト増加も直接的な利益押し下げ要因となった。一方で、為替相場はユーロに対し 7%の円安 となり、利益面で一定の下支え効果を発揮した。

項目2025年3月期(実績)2026年3月期(実績)前年同期比
売上収益1兆3,629億円1兆4,132億円+3.7%
事業利益895億円837億円△6.5%
営業利益751億円495億円△34.0%
当期利益551億円182億円△67.0%

業績推移(通期)

売上高営業利益

セグメント別動向

主力のプリンティングソリューションズ事業は、売上収益が 1兆295億円(前期比 +5.0%)と堅調に推移した。新興国市場を中心に、大容量インクタンクモデルの本体販売が拡大したほか、インクボトルなどの消耗品の売上も伸びた。しかし、セグメント利益は 1,206億円(同 △3.4%)の減益となった。為替のプラス影響があったものの、米国関税によるマイナス影響が大きく響いた。

ビジュアルコミュニケーション事業(プロジェクター等)は、売上収益が 1,814億円(前期比 △11.0%)、セグメント利益が 123億円(同 △57.8%)と大幅な減収減益となった。最大市場の一つである中国の景気悪化に加え、欧米の教育市場での需要一服が直撃した。主力製品である液晶プロジェクターの販売苦戦が利益を大きく削る結果となった。

マニュファクチャリング関連・ウエアラブル事業は、売上収益 2,061億円(前期比 +13.6%)となり、セグメント利益は 108億円(前期は 32億円の赤字)と黒字転換を達成した。特に水晶デバイスが、主要顧客の在庫調整完了を受けて大幅な増収となった。また、国内でのインバウンド需要回復によりウオッチ(腕時計)事業も好調に推移した。

セグメント売上収益前期比セグメント利益前期比
プリンティング1兆295億円+5.0%1,206億円△3.4%
ビジュアル1,814億円△11.0%123億円△57.8%
製造・ウエアラブル2,061億円+13.6%108億円黒字転換
セグメント売上高構成比営業利益営業利益率
プリンティングソリューションズ事業1.0兆円73%1,206億円11.7%
ビジュアルコミュニケーション事業1,814億円13%123億円6.8%
マニュファクチャリング関連・ウエアラブル事業2,061億円15%108億円5.2%

財務状況と資本政策

当期末の総資産は前期末比 784億円増1兆5,348億円 となった。のれんの減損により無形資産は減少したものの、棚卸資産の増加や、将来の成長投資に向けた資金確保により現金及び現金同等物が 215億円増2,885億円 に積み上がったことが要因だ。親会社所有者帰属持分比率は 55.6%(前期末は55.3%)と、安定した財務基盤を維持している。

配当政策については、当期の年間配当を前期据え置きの 74円 とした。利益が大幅に減少したため連結配当性向は 130.3% まで上昇したが、財務健全性と安定配当の継続を優先した経営判断といえる。さらに、2027年3月期(次期)は業績のV字回復を見込み、年間 80円(前期比 6円増配)への増配を計画しており、株主還元への強い姿勢を示している。

通期見通し

2027年3月期の通期連結業績予想は、売上・利益ともに増収増益を見込んでいる。売上収益は前期比 2.6%増1兆4,500億円、営業利益は同 73.5%増860億円 を計画。前期に計上した多額の減損損失が一巡することに加え、不振だったビジュアルコミュニケーション事業の回復や、製造関連事業のさらなる成長を見込む。前提為替レートは 1ドル=151.00円1ユーロ=175.00円 と、足元の円安水準を据え置いている。

項目2026年3月期(実績)2027年3月期(予想)前期比
売上収益1兆4,133億円1兆4,500億円+2.6%
事業利益838億円900億円+7.4%
営業利益496億円860億円+73.5%
当期利益182億円590億円+224.1%

リスクと課題

今後の懸念材料として、会社側は以下のリスクを挙げている。

  • 米国関税政策の不確実性: 商業印刷分野での設備投資抑制が続くリスクがあり、Fiery社の事業再建の成否を分ける。
  • 地政学リスクの長期化: 中東情勢の緊迫化に伴う物流コストの上昇や、サプライチェーンの断絶懸念。
  • 中国市場の低迷: ビジュアルコミュニケーション事業におけるプロジェクター需要の回復遅れ。
  • 競争激化: プリンティング分野における価格競争の激化によるマージン圧迫。
AIアナリストの視点

セイコーエプソンの今期決算は、表面上の利益だけを見ると厳しい内容ですが、中身を精査するとポジティブな変化も見えてきます。

最大の特徴は「負の遺産の処理」と「デバイス事業の底打ち」です。Fiery社の減損は痛手ですが、米国の関税リスクを織り込んだ保守的な修正であり、次期以降の利益を出しやすくする経営判断と言えます。また、長らく赤字や低迷が続いたデバイス・製造関連セグメントが黒字転換したことは、プリンター依存の収益構造からの脱却(事業ポートフォリオの多角化)が進んでいる証左であり、就活生にとっても将来性を感じさせるポイントです。

投資家視点では、配当性向100%超えを許容してでも配当を維持し、次期に増配をぶつけてきた姿勢に注目です。キャッシュフローが確保できている(営業CFは1,123億円の黒字)からこその判断であり、次期の純利益3倍増(590億円)という強気な計画の達成精度が、今後の株価の焦点となるでしょう。