東レ・2026年3月期通期、純利益2.1%増の795億円——韓国事業の減損響くも持分法改善で補う。次期は大幅増配へ
売上高
2.6兆円
+0.9%
通期予想
2.8兆円
営業利益
972億円
-23.7%
通期予想
1,600億円
純利益
795億円
+2.1%
通期予想
900億円
営業利益率
3.8%
東レが13日に発表した2026年3月期通期決算は、売上収益が前期比 0.9%増 の 2兆5,851億円、親会社株主に帰属する当期純利益が同 2.1%増 の 795億円 となりました。韓国子会社のバッテリーセパレータフィルム事業で多額の 減損損失を計上 したことで営業利益は大幅に減少しましたが、持分法投資損益の改善が最終利益を下支えしました。また、次期の年間配当は前期比6円増の 26円(うち記念配当3円)を計画しており、株主還元姿勢を一段と強めています。
業績のポイント
当連結会計年度の業績は、売上収益が 2兆5,851億円(前年比 +0.9%)と微増を確保した一方で、営業利益は 972億円(同 -23.7%)と大きく落ち込みました。この減益の主因は、韓国子会社における車載用バッテリーセパレータフィルム事業の収益性悪化に伴い、251億円 の 減損損失を計上 したことです。EV市場の減速や競争激化という外部環境の変化が、成長分野と位置づけていた事業に重くのしかかりました。
一方で、親会社株主に帰属する当期純利益が 795億円(同 +2.1%)とプラスを維持できたのは、金融損益の改善が寄与したためです。特に 持分法による投資損益 が前期の赤字から 215億円の黒字(前年同期は24億円の赤字)へと劇的に改善したことが、本業の減益を補う形となりました。世界的な景気回復の遅れや地政学リスクが懸念される中、構造改革と多角的な事業ポートフォリオが利益の安定化に貢献しました。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 | 前年同期比 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 2兆5,633億円 | 2兆5,851億円 | +0.9% |
| 事業利益 | 1,428億円 | 1,419億円 | -0.6% |
| 営業利益 | 1,275億円 | 972億円 | -23.7% |
| 当期純利益 | 779億円 | 795億円 | +2.1% |
業績推移(通期)
セグメント別動向
各セグメントの動向は、市場環境の明暗が分かれる結果となりました。主力分野ではコスト改善が進む一方、先端材料分野では市況の調整局面が続いています。
繊維事業 は、売上収益が 1兆511億円(前年比 +4.0%)、事業利益が 680億円(同 +6.0%)と増収増益を達成しました。欧州市場の低迷や海外勢との競争激化という逆風はあったものの、自動車用途を中心に産業用繊維が底堅く推移し、徹底したコスト削減策が実を結びました。
機能化成品事業 は、売上収益が 8,944億円(同 -5.3%)、事業利益が 563億円(同 -6.2%)と苦戦を強いられました。車載用コンデンサ向けのフィルム需要などは堅調だったものの、主力の樹脂事業が自動車市況の低迷を受け、さらに韓国のバッテリーセパレータフィルム事業が市場の停滞で大きく沈み込みました。
炭素繊維複合材料事業 は、売上収益が 3,001億円(前年比 横ばい)、事業利益が 176億円(同 -21.7%)と利益が急減しました。航空宇宙用途はボーイング等の増産背景に回復基調にありますが、一般産業用途での圧力容器向け需要が調整局面に入ったことや、風力発電翼用途の回復が想定より遅れたことが響きました。
環境・エンジニアリング事業 は、売上収益が 2,669億円(同 +12.8%)と大きく伸び、事業利益も 288億円(同 +11.2%)と好調でした。中東向けの海水淡水化用逆浸透膜(RO膜)の出荷が堅調だったことに加え、国内のプラント建設需要を確実に取り込んだことが寄与しています。
| セグメント | 売上収益 | 前年比 | 事業利益 | 前年比 |
|---|---|---|---|---|
| 繊維 | 1兆511億円 | +4.0% | 680億円 | +6.0% |
| 機能化成品 | 8,944億円 | -5.3% | 563億円 | -6.2% |
| 炭素繊維 | 3,001億円 | 0.0% | 176億円 | -21.7% |
| 環境・エンジ | 2,669億円 | +12.8% | 288億円 | +11.2% |
| セグメント | 売上高 | 構成比 | 営業利益 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|---|
| 繊維 | 1.1兆円 | 41% | 680億円 | 6.5% |
| 機能化成品 | 9,054億円 | 35% | 563億円 | 6.2% |
| 炭素繊維複合材料 | 3,010億円 | 12% | 176億円 | 5.9% |
| 環境・エンジニアリング | 3,239億円 | 13% | 288億円 | 8.9% |
財務状況と資本政策
当期末の総資産は、円安による海外子会社の円換算額の増加や、有形固定資産の積み増しにより、前期末比 1,844億円増 の 3兆4,770億円 となりました。負債についても、運転資金の確保を目的とした借入金の増加により 771億円増 の 1兆5,491億円 となっています。自己資本比率は 51.8% と、依然として強固な財務基盤を維持しています。
特筆すべきは、積極的な 株主還元方針の強化 です。当期中に 1,117億円 の自己株式取得を実施し、資本効率の向上を図りました。配当についても、2026年3月期は年間 20円(前期比2円増)としましたが、続く2027年3月期は普通配当の増額に加え、東レ創業100周年を見据えた 「記念配当3円」 を上乗せし、年間 26円 まで引き上げる計画です。これは経営陣の将来の業績回復に対する自信の表れと言えます。
通期見通し
2027年3月期の通期業績予想については、売上・利益ともに大幅な拡大を見込んでいます。売上収益は前期比 9.5%増 の 2兆8,300億円、事業利益は同 12.7%増 の 1,600億円 を目指します。航空宇宙向けの炭素繊維需要のさらなる回復や、機能化成品における構造改革の効果を織り込んでいます。
| 項目 | 前期実績(26/3) | 当期予想(27/3) | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 2兆5,851億円 | 2兆8,300億円 | +9.5% |
| 事業利益 | 1,419億円 | 1,600億円 | +12.7% |
| 親会社帰属当期純利益 | 795億円 | 900億円 | +13.2% |
| 年間配当金 | 20円 | 26円 | +30.0% |
リスクと課題
好転しつつある業績予想の一方で、経営環境には不透明感が漂っています。会社側は以下の項目を主要なリスクとして挙げています。
- 米国政策の影響: トランプ政権による通商・外交政策の転換が、グローバルなサプライチェーンや原材料価格に与える不確実性。
- 中国経済の停滞: 中国国内のパネル需要低迷や、現地の樹脂コンパウンド・フィルムメーカーとの競争激化によるマージンの圧迫。
- EV市場の変調: バッテリーセパレータフィルムなど、車載向け先端材料の需要回復のタイミングが想定より遅れる可能性。
- 地政学リスク: 中東情勢の緊迫化に伴うエネルギー価格の高騰や、物流の混乱によるコスト増益要因。
今回の決算で最も注目すべきは、韓国のバッテリーセパレータフィルム事業での多額の減損計上という「負の遺産の処理」を進めた点です。EV市場の成長鈍化という逆風を正面から受けた形ですが、これを当期のうちに整理しつつ、持分法投資損益の改善や他セグメントの堅調さで最終増益に持ち込んだ点は、東レの事業ポートフォリオの粘り強さを示しています。
投資家にとってのポジティブサプライズは、次期の「大幅増配(20円→26円)」と「記念配当」の発表でしょう。1,117億円もの自己株買いを既に実施していることと合わせ、資本効率(ROE)の改善に対する経営陣の強い意志が感じられます。
今後は、航空宇宙用途の炭素繊維がどれだけ利益を牽引できるか、そして今回減損を出したフィルム事業などの構造改革がどれだけ早く実を結ぶかが焦点となります。就活生の視点では、単なる素材メーカーではなく、環境(RO膜)や先端材料(炭素繊維)など、社会課題解決型の高機能材料で世界シェアを競う「技術の東レ」の底力が再確認できる決算内容と言えます。
