大林組・2026年3月期通期、営業利益36.6%増の1,946億円——国内建築の採算改善が寄与、自己資本比率40%到達
売上高
2.6兆円
-0.2%
通期予想
2.9兆円
営業利益
1,947億円
+36.6%
通期予想
1,800億円
純利益
1,738億円
+19.5%
通期予想
1,570億円
営業利益率
7.5%
ゼネコン大手の大林組が発表した2026年3月期通期決算は、売上高が前期比0.2%減の2兆5,862億円とほぼ横ばいながら、本業の儲けを示す営業利益は同36.6%増の1,946億円と大幅な増益を達成しました。国内建築事業において大型案件の追加工事獲得や採算性の改善が進んだことに加え、不動産事業での物件売却が利益を押し上げました。財務面では自己資本比率が40.0%に達し、株主還元方針として掲げるDOE(自己資本配当率)5%程度の維持に基づき、年間配当を前期から7円増の88円とするなど、資本効率と還元の両立を鮮明にしています。
業績のポイント
2026年3月期の連結業績は、売上高が2兆5,862億円(前期比0.2%減)と微減したものの、各利益項目で大幅な改善が見られました。営業利益は1,946億円(同36.6%増)、経常利益は2,041億円(同34.1%増)、親会社株主に帰属する当期純利益は1,737億円(同19.5%増)を記録しています。売上高が横ばいとなった背景には、国内建築事業における前期の大型案件進捗の反動減がありますが、これを海外建築や国内外の土木事業が手持ち工事の順調な進捗でカバーしました。
利益面での躍進は、施工体制の最適化と徹底した原価管理が奏功した結果です。特に国内建築セグメントでは、資材高騰の影響をこなしつつ、追加・変更工事の獲得や採算性の高い案件の寄与が利益率を大きく押し上げました。営業利益率は前期の5.5%から7.5%へと大幅に改善しており、建設業界全体が直面する労務費上昇等のコスト圧力を、選別受注と生産性向上で克服した形です。また、不動産事業における開発物件の売却益も、全社的な収益底上げに寄与しました。
業績推移(通期)
セグメント別動向
建設事業全体では売上高が2兆4,093億円(前期比2.4%減)となりましたが、セグメントごとに明暗が分かれました。国内建築は、売上高こそ前期の反動で減少したものの、採算重視の姿勢が利益に直結しています。土木事業は国内外ともに堅調で、手持ち工事の消化が進み利益を積み増しました。
| セグメント | 売上高 | 営業利益 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|
| 国内建築 | 1兆1,387億円 | 1,040億円 | 9.1% |
| 海外建築 | 5,079億円 | 119億円 | 2.4% |
| 国内土木 | 4,266億円 | 409億円 | 9.6% |
| 海外土木 | 3,360億円 | 147億円 | 4.4% |
| 不動産事業 | 1,067億円 | 199億円 | 18.7% |
不動産事業は売上高が前期比46.9%増、営業利益が24.3%増と急成長を遂げました。これは自社開発したオフィスビルや物流施設等の売却が順調に進展したためです。建設事業への依存度を抑え、収益源を多角化する戦略が着実に成果を上げています。一方で、海外建築事業は売上高こそ拡大傾向にありますが、利益率は2.4%にとどまっており、今後は海外拠点での収益性向上が課題となります。
| セグメント | 売上高 | 構成比 | 営業利益 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|---|
| 国内建築 | 1.1兆円 | 44% | 1,041億円 | 9.1% |
| 海外建築 | 5,080億円 | 20% | 120億円 | 2.4% |
| 国内土木 | 4,266億円 | 17% | 409億円 | 9.6% |
| 海外土木 | 3,360億円 | 13% | 148億円 | 4.4% |
| 不動産事業 | 1,068億円 | 4% | 200億円 | 18.7% |
財務状況と資本政策
総資産は前期末比1,006億円増の3兆1,434億円となりました。事業用不動産の取得や投資有価証券の評価増が要因です。一方、有利子負債は186億円削減し3,440億円まで縮小しました。利益蓄積に伴う利益剰余金の増加により、純資産は1兆3,164億円に拡大。これにより、自己資本比率は40.0%(前期末比1.9ポイント上昇)に到達し、財務基盤の強化が一段と進みました。
株主還元については、中長期的な資本効率向上を目指し、DOE(自己資本配当率)5%程度を指標とする累進的な配当方針を維持しています。2026年3月期の年間配当は前期から7円増配の88円を決定しました。さらに、2027年3月期にはさらに6円増配の94円を予定しています。並行して、資本効率を阻害する政策保有株式の縮減も加速させており、2027年3月末までに連結純資産の20%以内とする目標に向け、当期中に約660億円の売却を実施しました。
戦略トピック:インドネシアでの高速道路事業に参画
大林組は本決算発表と合わせ、インドネシアでの高速道路コンセッション(運営権)事業への参画を公表しました。現地法人「PT JTD JAYA PRATAMA」の株式を取得し、関連会社化します。同社はジャカルタ首都圏で全長約31kmの高速道路運営権を保有しており、人口増加に伴う交通需要の取り込みが期待されます。
この投資は、国内建設事業で培ったノウハウを周辺事業へ転換する「新領域ビジネス」の強化を象徴するものです。初期投資額は約453億円(OCI社設立分含む)を見込んでおり、インフラ運営という安定的なストック収益を確保することで、景気変動に左右されやすい請負事業の補完を目指します。
通期見通しと今後のリスク
2027年3月期の通期予想は、売上高が2兆9,450億円(前期比13.9%増)の大幅増収を見込む一方、営業利益は1,800億円(同7.5%減)と減益を予想しています。これは、将来の成長に向けた人材・DX・技術投資の強化や、資材価格の先行き不透明感を保守的に見積もった結果です。ただし、受注高目標は3兆1,000億円と高い水準を掲げており、豊富な受注残高を背景に業績の底堅さは維持される見通しです。
| 項目 | 2026年3月期実績 | 2027年3月期予想 | 前期比 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 2兆5,862億円 | 2兆9,450億円 | +13.9% |
| 営業利益 | 1,946億円 | 1,800億円 | △7.5% |
| 純利益 | 1,737億円 | 1,570億円 | △9.6% |
主な経営リスクとしては、熟練技能者の不足と人件費の上昇、および物流の「2024年問題」に伴う輸送コストの増加が挙げられます。また、海外事業においては地政学リスクや為替変動による原材料価格への影響を注視する必要があります。同社はこれらの課題に対し、施工の自動化やプレキャスト化による省人化投資を加速させる方針です。
大林組の今期決算は、売上高が微減ながらも利益が大幅に伸長した「質の高い決算」と言えます。特に国内建築の営業利益率が9%を超えたことは、資材高に苦しんだ前期からの劇的な回復を示しています。
注目すべきは資本政策の転換です。PBR1倍割れ是正を意識し、DOE5%という明確な還元指標を掲げたことで、投資家からの信頼を勝ち取っています。また、政策保有株式の縮減を2027年までに20%以下とする目標も順調に推移しており、キャッシュ創出能力が高まっています。
懸念点は来期の減益予想ですが、これは投資フェーズへの移行と捉えるべきでしょう。インドネシアでの高速道路事業参画など、請負一辺倒からの脱却を急ぐ姿勢は、国内市場の縮小を見据えた妥当な経営判断です。就活生にとっても、伝統的なゼネコンからインフラ運営や不動産開発へと領域を広げる同社の姿は、キャリアの多様性という観点で魅力的に映るはずです。
